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| ユビキタスコンピューティングのゆくえ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
東京工科大学 片柳研究所 教授 松下 温 |
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1 ユビキタス化に向かって |
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| 1980年代の初頭には依然としてコンピュータは高価なものであった。そのため、1台のコンピュータは多くの人によって共有する形態が自然であった。ICチップの進展により小型化・高性能化が急速に進みパソコンが登場するに到り、80年代中ごろには共有から各人がコンピュータ資源を占有することが当たり前になった。90年代になってインターネットが急速に普及したため、個人は家にいながらにして世界の情報に接することができるし発信することも可能になり、ショッピングを行ったり金融サービスを受けることも可能になっている。われわれはIT化の究極のステージに立っていると思われていた。 さらに、携帯電話が急激な発展を遂げたため、一人一台の端末を携帯し、いつでもどこからでもネットワークに接続できるユビキタス社会の到来が現実のものになっている。しかし、このダウンサイジングの動きは一人一台の携帯端末を保持するという状況にとどまらず“ モノ”や“環境”までも情報通信機器に変える真のユビキタス社会に向かって急速に動き出している。ICタグ(RFID:radio frequency)と呼ぶゴマ粒大のICとアンテナとからなるモジュールがバーコードに変わってすべてのモノや環境に取り付けられ、人の行動や履歴、モノの物流に革命的な変化をもたらすものと思われている。人がICタグを持つことにより建物への入退出、駅への出入りなどが効率的に管理されるようになる(Suicaが好例)。モノが情報通信機器に変わると物流(宅急便、航空手荷物など)の効率化、モノのトレース(生産者から消費者まで)などモノの管理を抜本的に変えるまったく新しいユビキタス社会が到来する。 |
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2 RFIDタグの種類と性質 |
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ICタグはカード型、コイン型、シール型(紙にアンテナを印刷したもの)などさまざまな形状のものがあり、情報読み出し専用のものと、情報を書き込めるものとがある(表−1参照)。タグに電池を必要とするもの(アクティブタグ)と電池を必要としない(パッシブタグ)(リーダ側の電波を起電力にして、タグ内に電流を発生して情報を読み出す)ものとに分類されるが、パッシブタグが主流になりつつある。ICタグを無線周波数から分類すると表−2のように4種があり、950MHzのタグは日本では05年4月1日より利用が可能になった。人が持つプリペイドカードとしてSuicaの普及には目を見張るものがあるが、それは13.56MHzで通信距離を10cm以下に絞ったものです(図−1参照)。この通信距離を10cmにすることは、無線システム情報漏れによるセキュリティ上の不安と無線によるシステム間干渉があるという視点から、大きな意味を持つ。通信距離はアンテナの形状と大きさによってきまるが13.56MHzでは70cm、2.45GHzでは2m程度、950MHzでは4m程度になることが期待されている。
125KHz〜135KHzと13.56MHzのタグは電磁誘導でタグ内に電流が発生しメモリー内の情報を読むのに対し、950MHzと2.45GHzのタグはマイクロ波通信によりタグより情報を取り出す。このため13.56MHzのタグは金属製の包装に貼ることはできない(電磁誘導のため電流がその金属に流れ出る)。950MHzと2.45GHzのタグは水分に電波が吸収されるためペットボトルなどに貼った場合に影響が出ることが予想される。 以上のような課題も多いが、ICタグをモノに適用することは、ダンボールにつめられたタグを貼られた入荷製品の検品作業や在庫調査を梱包を解かずに極めて効率化できる点である。リーダを梱包に近づけることにより複数のタグを同時に読み取れるからである。実際には、リーダの問い合わせに対し複数のタグが応答すると衝突が発生し情報を読み取れないが、読み取れるIDを限定していくことで1個づつすべてを読めるように工夫されている。 |
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3 普及の課題 |
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| 普及のためにはICタグのコスト低下と通信仕様の標準化が不可欠である。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1)ICタグのコスト |
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バーコードの製造コストは1円以下といわれているので、ICタグのコストが10円、100円すれば普及に時間がかかるといわざるをえない。ICタグはICチップ、アンテナ、パッケージの3つから構成される。ICチップは0.4〜1mm角程度の大きさで数円といわれている。パッケージのコストはその形態に依存し、アンテナとチップを透明なシールではさんだインレイという形態とプラスティックに封印した形態とがある(図−2参照)。インレイは曲げと温度に弱いがもっともコストが安く、プラスティック封印はコストが高い。インレイを商材にそのまま貼るものが最も安く(数10円)、値札に加工したものやプラスティック加工のものはまだまだ高くつく(100万個製造でも数100円)。ICチップは1枚のウエハーを格子状に切断することで作られる。チップサイズが小さいほど1枚のウエハーから取り出せるチップが多くなるので、チップのコストを下げることができる。0.5mm角のチップは1mm角のチップに比して1枚のウエハーから4倍の数のチップを取り出せる。2.45MHzの日立のミューチップは0.4mm角であり、13.56MHzのチップ製品は1mm角のものが多い。ミューチップは16バイトのROMで、13.56MHzのチップは1Kバイトの書き込み可能なメモリーを内蔵している。書き込み可能メモリーはROMに比してチップ面積が大きい。書き込み可能メモリーの面積はチップ面積の80%にもなる。チップサイズが小さいとアンテナとの接続が難しくなることから普及のサイズは5mm角程度と予想される。アンテナを含むタグのトータルコストが少なくとも10円以下になることが必要であり、数円になることが普及のポイントである。
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2)無線通信方式とネットワーク技術の標準化 |
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| I Cタグと周辺システムとの全体図を図−3に示す。 図−3のAはICタグとリーダ・ライタ間の無線インタフェースに当たる物理的通信仕様に関係する。国際標準化がそれぞれの周波数(1 3 . 5 6 M H z 、950MHz、2.45GHz)ごとに進められている。BはリーダとPCとの間のデータ送受信形式に関係し国際標準を策定中である。ICタグの共通のIDフォーマットと書き込める個人情報、商品属性などに関しては共通IDフォーマットの標準化は進んでいるが、書き込める情報は各アプリケーションに依存する。商品属性は各業界ごとに進められるので標準化には時間を必要とする。多品種を扱う小売業などのためには各商品の属性情報をネットを通して調べる仕組みが必要になる(図−3のC)。たとえば、入退出管理、賞味期限を表示するアプリ、在庫管理と検品作業アプリなどのWebアプリを開発する記述言語の統一化が望ましい。
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3)書き込み型とネットワーク型 |
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書き込み型は商品の属性情報をICタグの中に持たせることができるが、メモリーが大きくICタグの単価が高価になる。一方、ネットワーク型はICタグにはID情報のみを保持し、商品属性情報はデータベースシステムを持つサーバで管理する方式である。物流現場ではデータベースへのアクセス時間とネットワークの運用コストが必要になる(図−5参照)。ネットワーク型はEPCglobal社の仕様による商品管理が世界標準のため望ましく(EPC社への年会費必要)、SavantというEPC社特有のシステム構築が必要になる。商品によってはその国の古い文化や伝統があり、すべてをEPCglobalが定めるID情報と独自の商品属性を管理できるサーバによるネットワーク型だけのシステムの構築には無理がある。独自の商品属性を書き込めるタイプのシステム構築も地域ごとに必要性があることも理解できる。
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4 商材別の縦割り物流の効率化から横断的な(小売業など)モノ管理へ |
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1)商品別の物流の効率化(縦割り) |
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| 業界ごとと各社の多くの実証実験が進行中である。アパレル業界、JR貨物、書籍、JRのSuica、航空手荷物(国交省の
e−エアポート構想)など特定業務に限定した実験が鳴り物入りで行われているが、紙面の制約のためアパレル業界とJRのSuicaに代表される交通系ICカードのみを紹介する。 アパレル全体の市場規模は8兆円あり、そのうちの5%の4千億円が物流コストといわれている。この実証実験には日本アパレル産業協会(280社)が参加し、加盟280社の市場占有率は43%である。物流コストのうち1,200億円が人件費にあたり、ICタグの導入によって70%程度のコスト削減(840億円)が期待されている。縫製工場、アパレルメーカ、小売店の間の流通過程で入荷検品、出荷検品が人手によって重複して行われている(図−6参照)。縫製工場では、一枚ずつICタグを取り付け、出荷の際には商品名、ブランド名、色、サイズなどをタグを使って一枚ずつ検品することが必要になる。アパレルメーカでは商品と伝票を照合して再度1点ずつ検品することが必要になる。小売店でも入荷のたびに、伝表と1点ずつ照合しながら再度重複した検品が行われている。アパレルメーカ各社が異なるICタグを使用すると縫製工場、運送会社、小売業に困難が生じる。メーカごとに異なる複数のタイプのリーダ・ライターがアパレル流通過程のサプライチェーンの各企業に必要になる。ICタグとリーダ・ライターの標準化と書き込む商品属性の標準化が避けて通れない。リーダ・ライタにも多くのタイプの必要性が指摘されている。トンネル型、ゲート型、ハンディ型、携帯ハンディ型、平台型などが検討されている。
JR東日本はICタグを用いたSuicaを2001年から採用し、その成功を見てJR西日本も2003年から同様なカードICOCAを採用している。近畿圏の鉄道とバス42社がPiTaPaを2004年から採用し、関東鉄道23社パスネットのICカード版を2006年に導入を予定している(図−7参照)。このように1枚のICカードに電子マネー、電子チケット、クレジットカードなどの多機能化の動きが急速に広がっている。たとえば、JR東日本はビル入退出管理、クレジットカードの機能を持つ”View Suica”、小額決済サービスなどの利用を開始している。P i T a P a には、カードの残額が1,000円以下になると、対応の銀行口座から2,000円が自動的にチャージされる機能、1ヶ月まとめて払える“ポストペイ”の機能などがある。 |
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2)横断的な商材管理基盤確立の試み(小売業などの立場) |
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ICタグによるIT技術活用によるモノの管理効率化の検討では、取り扱う商材ごとの生産・供給、物流の特有の手法に焦点を当てたいわば縦割り的なモノの流れの効率化に置かれていた。そのため、個別の商材・業態・業種についての効率化が色濃くでてしまい、どの部分が他の商材・業態への活用が可能なのか不鮮明である(フューチャストア推進フォーラム設立)。そのフォーラムは多数の商材を扱う小売業の立場に立って、個別商材・業態の枠にとどまらない小売業としての顧客の来店喚起・購買喚起・顧客満足度の向上を図るサービス実現の検討をする予定である。
4つのサブワーキング(日用雑貨・化粧品など、飲料・加工食品、アパレル、CD/DVD・書籍)と情報基盤サブワーキングとから構成され、05年中に実証実験を行うことになっている。 |
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5 新しいICタグ利用の動き |
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1)タグリーダ・ライターの小型化の動き |
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| ICタグのリーダ・ライターの小型化が急速に進んでいる。JR東日本のSuicaの例に見るように無線通信距離を極力抑えることによって、個人の利用が飛躍的に拡大したことは前述のとおりである。“複数のタグを一括して読みたい”という要求がタグとそのリーダの設計条件の常識とこれまで捉えられてきた。通信距離をセンチでなくミリメートルに抑えて飛躍的に小型化した製品が登場している(日立マクセル(1
3 . 5 6 M H z ):通信距離4mm、大きさ2 5 m m×45mm×10mm、松下電子応用機器(13.56MHz):通信距離10mm、大きさ40mm×20mm×5.4mm、吉川アールエフシステム(13.56MHz):通信距離10mm、大きさ70mm×25mm×10mm)。この小型化がまったく新しいICタグの応用の道を開きつつある。 NTTドコモは光ケーブルの配線にICタグとリーダを組み込むことによって、配線の変更にかかる時間を大幅に改善した。ケーブルコネクターにICタグを取り付け、それらのコネクターの多数の挿し込み口のそれぞれに小型リーダとLEDを取り付ける。光ケーブルのコネクターと挿し込み口が正しく接続されたかどうかを瞬時に判断できるので、配線変更を効率化できるようになった。タグとそれぞれの挿し込み口にあるリーダとの距離は数ミリで充分である。 情報の取得や交換にインターネットが必要不可欠な現在、企業や大学では会議室や教室の机などいたるところに情報コンセントが設置され、LANやインターネットにどこからでもアクセスが可能になった。しかし、その反面、関係の無い第三者にLAN内部のリソースに不正にアクセスされる可能性があるため、ユーザやアクセス管理が重要になる。東京工科大の筆者の研究室ではLANケーブルそのものを固有化して、情報コンセントで認証を行うことでケーブルを挿すだけでユーザ認証ができるシステムを提案している。現在、オフィスや大学キャンパスでは部外者の出入りが非常に多く、ゲストのような一時的なユーザにもネットワークへのアクセス環境を提供する必要がある。この際、内部ネットワークへのアクセスを禁止するだけでなく、ゲストに対して、共有プリンタなどの一部の通信を許可しなければならない。一時的なユーザへMACアドレスの登録やパスワード認証の変わりに、固有のIDを持ったケーブルを貸し出す。そして、情報コンセントでケーブルのIDを認証することで、アクセス可能なリソースを制御する(図−8、9参照、I C タグを取り付けたLANケーブルとリーダを取り付けたハブ)。
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2)家庭へのICタグ利用の動向 |
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| このリーダ・ライターの小型化の動きに拍車がかかると予想されている。いずれ近いうちに携帯電話にリーダ・ライターが搭載されるようになる。ポスターにICタグを貼られていれば携帯をかざすだけで、そのポスターの映画の情報が携帯の画面に自動的にダウンロードされる。リーダ・ライターが携帯に搭載されるとそのICモジュールの出荷台数が飛躍的に増え、そのモジュールの価格の低下と小型化に更なる飛躍が期待される。リーダの携帯への搭載は家庭での利用を促し、東京工科大のユビキタスITセンターで行われている家庭での利用例(図−10参照)をいくつか紹介する。貴重品の管理では権利書、株券、卒業証書、各種の資格認定書などは頻繁にアクセスしないので、引越しを数度すると、しまっておいた場所がわからなくなり、さがすのに思ったより時間がかかって苦労することが多い。リーダを搭載した携帯をかざして容易に発見できるようになる(ICタグを証書に直接貼るか、証書の筒、封筒に貼るなどして対応)。ディスプレイ付冷蔵庫は庫内に在る食品の賞味期限と調味料などの液体の使用量を表示するし、携帯にネットを通じて連絡できる。ネットワーククローゼットや高齢者向け薬の飲み忘れ管理などの研究を行っている。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
6 むすび |
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| ICタグリーダ・ライターのスペックにはEPCglobal仕様、ベンダー独自コマンドの存在、T-Engineフォーラム仕様(ユビキタスセンター)などがあり、このまま ではこれらのさまざまな仕様にひとつのアプリケーションを開発するのに対応することを余儀なくされる。外部アプリケーションとのインタフェースを統一化するために、これらのタグリーダの仕様を隠蔽するミドルウエアを、東京工科大学では、開発中である(図−11参照)。このように、ICタグ利用のユビキタス社会に向け急速な動きが世界中に充満しているが、特定の商品を対象とした縦割り的なサプライチェーンからユビキタス化が進行し、その次のステップとして徐々に横断的なユビキタス情報基盤が確立すると予想される。
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このコンテンツは、ALIA NEWS Vol.89(2005.9)から、原文のまま掲載しております。 |
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