創立15周年記念ネットフォーラム
  
      住産業に係る新技術の動向について
将来のIT住宅 「u-house」

住宅情報化推進協議会(ALICE) 生部 圭助


1 はじめに
 岩下繁昭さんは、「IT住宅 ホームオートメーションからネットワークサービスへ」の中で1970年代から今日に至る住宅のIT化について振り返っておられる。私も、HAやS-HBSについてかかわってきたので、先人たちが努力された状況はよく理解できる。 本稿では、IT住宅の将来を展望することとし、2010年頃の住宅がIT化されたイメージを、「u-house(ユビキタス ハウス)」のコンセプトとして提示してみたい。


2 「ユビキタス」をトレンドとして見る
 「ユビキタス・コンピューティング」は、1980年にゼロックスのパロアルト研究所のマーク・ワイザー博士によって提唱された概念である。その後多くの人がそれぞれの立場、将来に対する思いや意図により様々な概念として使われている。
 「ユビキタス」を理解するうえで過去を振り返って、現在を見て、将来を予測してみると分かることも多い。図−1は1990年頃のニューメディアと言われた時代から今日までを振り返って、さらに将来のトレンドを概観したものである。詳細に観察すると、図に示すようには割り切れないところもあるが、トレンドの大筋を見ることが出来る。

図−1 ユビキタスをトレンドで見る

 1990年代に提唱された「ニューメディア」に続いて1995年頃から「マルチメディア」、2000年頃からは「ブロードバンド」の時代といわれた。その頃から「ユビキタス」という概念は提唱されはじめていたが、2004年頃から本格的に時代のトレンドとして定着してきた。
 過去を振り返った時に、最もインパクトの大きかったのは、インターネットの普及であろう。HAやS-HBSの時代におけるIT住宅に対する将来予測は、今日と大きく違ってはいないが、インターネットがもたらしたインパクトは大きい。ブロードバンド環境が整備されるに従って、生活やビジネスのあらゆる局面で急速な変化が見られる。今後はブロードバンドが、放送や携帯電話のネットワークとも融合されながら予想を超えて技術面でもサービスにおいても大きく進化していくと思う。


3 ユビキタス時代の住宅
 住宅情報化推進協議会において、平成16年度の活動の一環として、2010年頃を見据えてIT住宅のコンセプトを作成するために、協会内に「u-house 研究会」を設け作業を行ってきた。以下に同研究会の成果の一端を紹介する。

(1)「u-house」のコンセプト
 2010(ツー・オー・テン)の住宅は、安心をベースに多彩な生活を演出する《彩りの家》でありたい。そして《彩りの家》を支えるのは《電気執事》である。 生活者の多彩な要求を支えるために、《電気執事》が生活者のおかれた環境や状況《コンテクスト》を把握《アウエア》し、生活者の要求する最適な情報やサービスをきめ細かく提供してくれる。
 《コンテクスト》とは文脈とか状況を意味し、場所・位置関係・時間・環境などについての状況を示す。《アウエア》とは、《コンテクスト》に気づく、把握することを意味する。したがって、《コンテクスト・アウエアネス》は《電気執事》が生活者の「状況」をふまえて、生活者を「サポート」することを意味する。(図−2) 「u-house」の真髄は、人が中心にあり、《電気執事》が生活者に対してストレスを与えないで、きめ細かく支援してくれることである。そのためにたくさんの技術が背後でサポートしている。

図−2 u-house 2010コンセプト


表ー1 生活者のコンテクスト(文脈、状況)
居住者ニーズ
(分野)
居住者の求めるニーズの内容 備考
健康 ・遠隔医療診断を受ける ・共有化された診断情報をもとに診察を受ける
・高齢者やハンディキャップも
暮らす ・異常時に携帯電話に映像で知らせる
・外出先から宅内の状況を確認する(安全・冷蔵庫の中)
・家電などの省エネ制御をする
・ひとり暮らしの高齢者が緊急時に通報し助けを求める
働く ・必要なところで情報を得、仕事をする
・仕事関係資料を収集・蓄積・整理・検索する
・仕事に必要な社内外の情報を得る
学ぶ ・必要なとき、必要な場所でネットを介して百科事典・図鑑・資料を利用する ・学校・宅内・外部での利用
遊ぶ ・コンテンツを保存し、好きなときに好きな場所で楽しむ ・ネットを利用して好きな時間に好きな映画を取得して見る
・メディアを意識しない
交わる ・離れている親族・家族のコミュニケーションを行う
・社会貢献の仲間と情報交換を図る
 
運用する ・住民票や印鑑証明をオンラインで取り寄せる
・在宅で選挙・住民投票を行なう
・ネットで代金決済・納税をする
・必要なときに必要な場所で本人確証が得られる

(2) 生活者のコンテクスト
 7つの分野を想定しユビキタスにかかわるコンテクスト(生活者のおかれた環境や状況)を抽出した。(表−1)

(3)「u-house」における生活シーン
 表−1に示した「コンテクスト」に対して、「アウエア」し、《電気執事》が生活者の要求する最適な情報やサービスを提供してくれる状況を、生活シーンとして示した。
 登場人物は優美さん(妻)、喜多州さん(夫)、遍くん(長男)、在くん(次男)、網(あみ)さん(祖母:田舎に居住)の5人である。なお、ここで使用したイラストは、松井正孝氏によるものである。

@健康:遠隔医療・診断
 優美さんは、ひとりで田舎に住んでいる母親の網さんのことが常に心配である。最近では、病院が定期的にネットワークを介して遠隔で診断を行ってくれるようになった。母親と医者の遠隔診断に優美さんもネットワークを介して自宅のテレビで参加できる。母親と医者の対話を見ながら、母親の気持ちをくんで母親の意図を医者に伝えることが出来る。
 網さんは、定期的に行う診断項目について測定したデータを担当医に送った。担当医は、当日測定したデータと電子カルテから読み取った過去のデータを分析し、ディスプレイに映し出された母親の映像を見ながら、的確な指示を出した。健康データにもとづく注意事項は、網さんが通っているデイケアセンターにも、参考データとして伝達されている。(図−3)

優美さんは、田舎に住んでいる網さん(母親)が遠隔診断を受けている様子を自宅より知る

図−3 生活シーン−1 健康:遠隔医療・診断

A暮らす:シームレスに連続する生活
 主婦の優美さんは友人と作ったバーチャルカンパニーの社長をしている。携帯端末を持参し、2歳の在くんを公園で遊ばせながら、社員の一人から送られてきた新プロジェクトの企画書の内容をチェックしている。 家に戻って昼食後、在くんが昼寝をしたので、2階の仕事部屋のパソコンで企画書に対する意見を書いている。パソコンの画面で在くんの部屋の映像をサブ画面で5分ごとにモニターしている。パソコンのサブ画面に1週間後に予定している海外旅行先の映像と案内が偶然始まった。優美さんは1階のリビングへ移動し、ソファーに座ってテレビのスイッチをONしたら、仕事部屋のサブ画面の番組が自動的にハイビジョンで映し出された。(図−4)

優美さんは、在くんの面倒を見ながらバーチャルカンパニーの社長業を行う

図−4 生活シーン−2
暮らす:シームレスに連続する生活

B暮らす:外出先から冷蔵庫の内容を知る
 優美さんは、在くんをキッズ・ルームに預けて、週に一回のオフィスでの会議(オフ会)に出かけた。移動中や会議の合間に携帯電話の画面で、キッズ・ルームに居る在くんの状況を見る。帰宅時に今夜のメニューを考えたが、冷蔵庫の中にある野菜の在庫状況がはっきり思い出せない。早速携帯電話で自宅の冷蔵庫にアクセスし、何が不足しているかを確認した。(図−5)

優美さんは、仕事から帰宅途中に冷蔵庫の在庫状態を知る

図−5 生活シーン−3
暮らす:外出先から冷蔵庫の内容を知る

C暮らす:快適性を保ちながら省エネを
 喜多州さんは夏休みにホームシアターで高校野球を見ていた。ロボ君がそばに寄って来て、「うちの室温は2度低すぎます」と警告してきた。「温度設定を変えて」と命じたら、「はい承知」と言ってロボ君は目をしばたいた。(図−6)

ロボ君がエネルギーの使用状態を監視し、音声で警告を発し、指示内容を実行してくれる

図ー6 生活シーン−4
暮らす:快適性を保ちながら省エネを

D暮らす:宅内と車がシームレスな関係
 喜多州さんはインターネットでドライブのコースや訪問地の情報を事前に調べた。データを車のカーナビに無線LANを介して送る。最近では、それぞれの地域での情報提供が充実され、到達した地域のその日の情報がカーナビに表示されるので、事前に綿密な調査と準備の必要がなくなった。
 ETCも有料道路の料金決済以外に駐車料金や、ガソリンスタンドでは給油料金を自動決済できる。 ドライブの帰りに、自宅までの距離が30Kmになったところで、カーナビが音声で「クーラーの電源をONしますか?」と質問をしてきた。口頭で指示を与えたらそのとおりに実行してくれた。(図−7)

自宅までの距離が30Kmになったときに、「クーラーの電源を入れますか」とカーナビが質問してきた

図ー7 生活シーン−5
暮らす:宅内と車がシームレスな関係

E働く:いつでもどこででも仕事が出来る
 喜多州さんの会社では、社員の固定席を廃止し、外出先や家でも会社と同じように仕事ができる次世代のオフィスの形態が定着している。
 喜多州さんは週に3〜4回は在宅勤務を行っている。自宅のコンピュータには仕事関係の情報やデータを持たなくなった。会社のデータベースにアクセスすることにより、自宅では、資料の作成などの作業を行うだけで、作業結果はすべて会社のサーバーに保管されることになっている。
 外出するときは、ノートパソコンと携帯電話の組み合わせで、スケジュール管理から事務処理まで、場所を問わずに業務をこなせる仕組みが整っている。外出先や出張先からもテレビ会議に参加できる。
 喜多州さんは外出中だったので公園のベンチで会議に参加し、パソコンで当日の契約のデータを送り、携帯電話で概要を報告した。
 喜多州さんの会社では、業務の効率化だけでなく、仮に災害やテロで本社施設が使えなくなっても業務を続けるための災害時復旧対策のことも考えて、新しいオフィスシステムの範囲を拡大している。(図−8)

在宅勤務中の喜多州さん、コアタイムの会議にもリラックスして参加

図ー8 生活シーン−6
働く:いつでもどこででも仕事が出来る

F学ぶ:屋外で実習する
 長男の遍君は、昆虫が大好き。今日は知らない昆虫を見つけたので、映像と音声(鳴き声)を記録した。インターネットでデータベースへアクセスして調べたら昆虫の名前がわかった。その生態についての情報も得て、現地で実際に確認した。遍君はその場で友人に新しい昆虫を見つけたことを、映像と鳴き声を添えて送ってあげた。(図−9)

ウエアラブル端末を身につけた遍くん、遠隔地の図書館で採取した虫の名前を確認した

図ー9 生活シーン−7 学ぶ:屋外で実習する

G遊ぶ:メディアにかかわりなくコンテンツを楽しむ
 喜多州さんは8時半に帰宅した。放送中の野球は佳境に入っていたが、試合を最初から観ることにする。ホームサーバーから映像を呼び出し、追っかけ再生した。9時を過ぎたところで現在の場面まで追いつくことが出来たが、9時24分になったら肝心なところで野球放送が終了した。電子番組表で調べてみると、インターネットで同じ試合が放送されていることが分かった。早速テレビに指示をすると、テレビがインターネットのディスプレイ端末に変わり、試合終了まで野球を楽しむことが出来た。(図−10)

喜多州さんは、地上波の野球放送が終了したので、ブロードバンドに切り替えて続きを見た

図ー10 生活シーン−8
遊ぶ:メディアにかかわりなくコンテンツを楽しむ

H交わる:ホットスポット
 喜多州さんは出張に出かける途中に駅のホットスポットに立ち寄った。コーヒーを飲みながら会社に連絡を入れる。ここでは携帯電話が自動的に無線LANに接続され、VoIP(インターネット電話)を使って話すことが出来、電話代がかからない。(図−11)

ホットスポットでも、電気執事が手助けをしてくれるので、会社にいるのと同じ様に仕事が出来る

図ー11 生活シーン−9 交わる:ホットスポット

I運用する:e−デモクラシー
 優美さんは、インターネットでバーチャルカンパニーの社員総会で定款の変更手続きに必要な住民票をネットで取得し、自宅でプリントアウトしたのち、代金をネットで決済した。
 喜多州さんは先日のドライブでスピード違反をした。インターネットで証拠写真と罰金の請求が来たので、自宅からネット銀行より振り込んだ。
 優美さんは、区の広報のホームページより、川沿いの市有地を自然のままに現状維持する案に賛成し、公園に造成する案に反対の投票をした。(図−12)

優美さんは、川沿いの市有地を自然のままに現状維持する案にネットで賛成投票をした

図ー12 生活シーン−10 運用する:e−デモクラシー


4 終わりに
 本稿では、IT住宅の将来イメージを示した。紹介した内容は、住宅情報化推進協議会における「u-house 研究会」の結論の部分である。紙面の制約により、本研究会の成果の一部に限られた。「u-house」の実現に必要とされる技術の動向など、研究会のすべての成果をご覧いただければ幸甚である。

このコンテンツは、ALIA NEWS Vol.89(2005.9)から、原文のまま掲載しております。
社団法人リビングアメニティ協会