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| 光触媒を利用する環境にやさしい建築材料 | ||||||||||||
東京大学・先端科学技術研究センター 橋本 和仁 |
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1 はじめに |
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| 最近、テレビや新聞で酸化チタン光触媒という言葉を見聞きしたことのある読者も少なからずいらっしゃることでしょう。これは酸化チタンという無機の白色材料に、紫外線が照射されたときに起こる光化学反応を利用する日本発の新しい環境技術であり、また、酸化チタンのナノ粒子やナノ薄膜を利用することから、いわゆるナノテクノロジーとしても分類される技術です。すでに光触媒を利用した「環境にやさしい建築材料」は、2004年度に国内で約400億円、ヨーロッパ、アメリカで200億円強の市場規模に成長していると予想されます。さらにこの技術が興味深いのは、もともと日本の大学で発見された研究成果を元に、大学と企業の研究グループが協力することによって、新しい応用分野の開発、新現象の発見、そして製品化・産業化にまで至った、まさに産学連携の成果として位置づけることができる点にあります。本稿ではこの光触媒技術発展の歴史を簡単に振り返りながら、特に現在、市場が拡大しつつある「環境にやさしい建築材料」を紹介します。 | ||||||||||||
2 光触媒技術発展の歴史 |
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| 酸化チタン上での光化学反応は1950年代以前から知られていましたが、それが世界の多くの科学者の興味をひきつけるきっかけとなったのは、1972年にNature誌に報告された酸化チタン電極を用いる水の光分解、本多・藤嶋効果といえるでしょう。ちょうど第一次石油ショックの時代であり、太陽エネルギーの獲得手段として大いに注目されました。さらにその数年後には、酸化チタン粉末による水の完全分解反応が報告され、現在も水分解のための種々の金属酸化物の開発が活発に行われています。また、1980年前後からは、酸化チタン光触媒の持つ強い酸化力に着目した、有機物の分解反応、特に水の浄化反応への応用が、世界中で数多く研究されるようになりました。しかし、これらの研究はなかなか本格的な実用化にまでは至りませんでした。その主たる原因は、光エネルギーというのは大変希薄なエネルギーであり、大量の物質を処理するのは難しいためといえるでしょう。 一方、TOTO(株)の研究グループと筆者ら東京大学の研究グループとは共同で1990年ごろから、タイルなどのセラミックス材料の表面に酸化チタン薄膜をコーティングし、表面の汚れや菌を光分解するという新しい視点に立った応用研究を始めました。その結果、本格的な光触媒製品としては世界初となる抗菌タイルが1990年代の半ば商品化することができました。さらに同じころに酸化チタンの上でおこる新規の光化学反応、光誘起親水性反応を見出しました(1 9 9 7 年にN a t u r e誌に報告)。その結果、雨水によるセルフクリーニング機能や、防曇機能といった新たな応用展開も可能となりました。それらの技術が広い分野で使われるよう、1997年にライセンス会社を設立し(東陶フロンティアリサーチ(株))現在の本格的な市場化に至ることとなりました。この研究過程においては、大学の研究者の基礎的な考え方と、企業の研究者の応用的に対する知識がうまく組み合わさり、極めて独創的な製品開発が行われたと我々は思っています。実際、光触媒の建築材料への応用に関する研究はほぼ日本のみで進行しました。国内での研究がほぼ完成に近づいてから海外へ技術輸出され、2000年ごろになってようやくドイツを中心としたEC諸国において、さらに米国においては今年から本格的な光触媒製品の生産が始まっています。 |
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3 ナノテクノロジーとしての光触媒技術 |
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| 酸化チタンが紫外線を吸収すると、図−1の模式図に示すように内部の電子がエネルギーの高い状態になり、マイナス電荷を持つ励起電子と、その抜け殻でありプラス電荷を持つ正孔が生成します。これは太陽電池の原理と同じですが、太陽電池ではこの励起電子は外部回路に電流として取り出されるのに対し、光触媒では励起電子と正孔は表面で吸着している分子と反応します。化学の言葉で表現すると、還元反応と酸化反応を起こすわけです。もうひとつ太陽電池と光触媒反応が異なるのは、前者ではマイナスの電子とプラスの正孔を効率よく分離するためにはn
型の半導体とp 型の半導体を接合させて、内部に電位勾配を作る必要がありますが、光触媒としては数ナノメートルから数十ナノメートルの酸化チタン粒子や、その集合体の薄膜が使われるため、pn接合などの複雑な構造を作らなくても効率よく電子や正孔が表面にまで拡散する点にあります。すなわち、光触媒反応では酸化チタン粒子がナノ粒子であるために効率のよい光反応を起こすことができるのです。 酸化チタン光触媒の特徴は、光により生成される正孔が大変強い酸化力を持つことにあります。図−1に示したように、正孔は通常使われる強い酸化剤である過酸化水素やオゾンよりもはるかに強い酸化力を持ちます。この強い酸化力により、表面に吸着しているほとんどの物質はその最終の酸化生成物にまで酸化分解されます。これが光誘起分解反応です。また、酸化チタン表面の水の濡れ性が著しく高くなる、光誘起親水化現象も発現します。次にこれらの反応を利用する建築材料を紹介します。
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4 酸化チタン光触媒を利用する建築材料 |
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酸化チタンのナノ粒子を種々の建築材料に数十ナノメートルから百ナノメートル程度の膜厚でコーティングされたものが光触媒建築材料です。無色透明のコーティングですから、見た目には通常の建築材料と区別がつきません。しかし、それに紫外線が当たると図−2に示したようなさまざまな機能が発現します。それらの例を、機能別に紹介します。
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( i )セルフクリーニング機能 |
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これには光誘起分解反応のみによるものと、さらにそれに光誘起親水化反応が組み合わさることにより発現するものがあります。前者はトンネル内や屋内などで使われる材料で、その典型的な例であるトンネル照明のセルフクリーニングカバーガラスを写真−1に示します。トンネル内空気は、排気ガスに含まれる油やカーボンなどで汚染されており、照明のカバーガラスは図のように汚染されて照明の照度が低下してきます。この照明には通常ナトリウムランプという、黄色い色を出すランプが使われていますが、そのランプには真夏の太陽光直下での紫外線量に相当する程度の比較的強い紫外線が含まれています。そこでカバーガラスに酸化チタンをコーティングしておくと、表面に吸着する汚れ物質を光触媒分解反応により二酸化炭素にまで分解してしまうため、照明器具は常に明るい状態を保つこととなります。同様の効果は室内で使われるブラインドなどにも応用されており、汚れにくく掃除の楽なブラインドとして商品化されています。これは窓から差し込む太陽光に含まれる紫外線を利用する光触媒反応です。
一方、屋外で使われる建築材料では光誘起分解反応のほかに、光誘起親水化反応も起こります。すなわち、光による汚れ物質の分解効果に加え、雨水による洗浄効果も期待できます。これは材料表面が水に著しくぬれやすくなるために、表面に付着した汚れ物質と材料の間に雨水が入り込み、汚れが洗い流される効果です。その結果、雨のあたる条件で使われる外装建材では、画期的なセルフクリーニング効果が発現することになります。写真−2に建築材料に塗装した場合のセルフクリーニング効果を示しますが、塗装初期は見た目にはまったく区別がついていなかったものが、数ヵ月後には白黒に塗り分けたように顕著な違いが現れてきます。この効果を利用した外装タイル、ガラス、アルミカーテンウオール、ポリカーボネート板、PETフィルム、塗装剤などがすでに市販され、さまざまな建築で使われ始めています。
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(ii)防曇・防滴機能 |
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光誘起親水化反応により水の濡れ性が大変高くなった材料表面では、水滴は薄く広がってしまうことから光の散乱が起こらなくなり、曇り止めや水滴付着防止効果が得られます。いったん水にぬれやすくなった表面は、紫外線照射が終了しても、数日から1、2週間程度その状態が持続されます。そこで乗用車のバックミラー(写真−3)
やカーブミラーなど屋外で使用される鏡やガラスに光触媒を利用すると、常に防曇・防滴効果が得られることとなります。
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(iii)抗菌機能 |
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| 「室内照明に含まれる紫外線を利用して、セルフクリーニング効果や空気浄化効果を発現する」とうたった、光触媒コーティング剤や建材も一部で市販されています。しかし、通常の室内照明で得られる紫外線強度は屋外の千分の一程度と非常に弱いため、その効果の限界にも十分に注意する必要があります。ところが、酸化チタン光触媒と、銀や銅などの人体には全く無害な抗菌剤を併用すると、室内の照明下においても著しい抗菌効果が得られます。これは光触媒反応により菌の外膜が一部破壊され、抗菌剤が菌内部に侵入しやすくなって、菌活性が効果的に失われたためと考えられます。安全で、かつ効果的な抗菌法であることから、これを利用したタイルなどが国内、およびヨーロッパの病院や老人ホームなどでひろく使われ始めています。 | ||||||||||||
5 終わりに |
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| 酸化チタン光触媒は、セルフクリーニング効果、防曇効果、抗菌効果など種々の機能を材料表面に与えることを紹介してきました。ここで重要なのは、これらの機能が、洗剤や界面活性剤、抗菌剤などの化学薬品を使わずに、太陽光や雨水という自然界に存在するもののみを利用して発現されるという点にあります。すなわち、これらの材料は20世紀に得た消費型の便利な生活を、環境に負荷をかけないで持続的に得る事を可能とする「環境にやさしい現代材料」とみなす事ができます。さらに、酸化チタンコーティング材料の親水性を利用して、建材表面に上方から連続的に水を供給し、蒸発潜熱により建物を冷やすという国家プロジェクトが進められています。これらはエアコンの消費電力の低減や、屋上緑化の代替法など地球レベル、都市レベルの環境対策技術として期待できます。21世紀型の建築材料として、今後、ますます酸化チタンコーティング建材が利用されていくことを期待しています。 | ||||||||||||
このコンテンツは、ALIA NEWS Vol.89(2005.9)から、原文のまま掲載しております。 |
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