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| マイクログリッドエネルギーシステム | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
国立大学法人東京農工大学大学院 教授 柏木 孝夫 |
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1 エネルギーセキュリティーへの世界の潮流 |
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| 石油の行く先が本格的に見えはじめてきた。枯渇まで40年と言われ続けてきたが、これは使用量が増加すれば新しい油田開発が活発に行われてきた証拠でもある。しかし、新しく発見される油田の埋蔵量が産油量を下回ったとき、ピークを迎えて調整に入る。エネルギー革命の始まりである。家計でも収入が支出を下回れば、支出を抑えるか、他の収入源を見つけなければならないのと同じである。 産油量がピークにさしかかると大混乱をもたらす。バレル当たり80〜100US$にまで高騰するとも言われる。ピークは2025年頃と予想されているが、すでに2004年頃からピークにさしかかったという見解もある。 エネルギーは生活と産業の基盤であり、エネルギー確保の戦略は国の繁栄そのものであり、もはやエネルギー無しには社会・経済活動が何一つできないことは言うまでもなく、世界的にみてエネルギー源の多様化がエネルギーセキュリティーに対する重要なソリューションになりつつある。 最近まで我国にはエネルギー政策の基本と呼べる物はなかったが、2002年6月に議員立法でエネルギー政策基本法が成立した。エネルギー政策のバイブルと言われるこの基本法には3つの大きな柱がある。第一は「安定供給の確保」である。エネルギー自給率がわずか44%、原子力を入れても20%であり、大部分の化石燃料資源を海外からの輸入に頼っている我国にとって、エネルギー政策の基本はまずエネルギー確保が第一であることに異論はない。第二の柱は「環境への適合」である。京都議定書の発効は産業制約経済社会の到来を意味し、エネルギー経済の中に環境コストが内部化されることを意味する。 三つ目の柱は、「市場原理の活用」である。これからのエネルギー市場の中にマーケットメカニズムを積極的に導入し、エネルギー市場の自由化を推進してゆくことが法律の中に明記されている。但しここで注意すべきことは、まず安定供給と環境への適合性を担保した上で、我国の社会構造の変化に合わせて自由化を進めてゆくべきであるとしており、三つの基本柱は同格ではない。 我国においてエネルギー源の多様化を可能にする技術開発とは何かを原点に戻って真剣に考える時期であり、マイクログリッドにその解がある。 |
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2 炭素制約経済社会と省エネルギービジネス |
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| 基本法に則って我国では、2003年10月にエネルギー基本計画が閣議決定された。我国は、二度における石油危機を経て、石油代替や省エネルギー対策など、エネルギーの安定供給確保を最優先に取組んできたが、議定書の発効と相まって一層省エネルギーや新エネルギー開発、さらにはそれらシステムの導入に対する新しいビジネスモデルが極めて重要であると指摘されている。 省エネルギー、すなわちエネルギーの需要対策は「経済と環境の両立」を可能にする数少ない手段であると位置付けており、斬新な技術開発に対し大きな期待が寄せられている。産業部門での省エネルギーは勿論のこと、これからはエネルギー需要の伸びが著しい民生・運輸部門を中心に対策を強化する必要があることを強調している。 一方高性能な省エネルギー技術を効率的に市場に導入してゆくためには、顧客指向の新しい金融手法の開発が不可欠であり、その一例としてESCO(エネルギーサービス事業)の活用をあげており、すでに国内でも定着しつつある。斬新な金融モデルの先進国である米国でのエネルギービジネスはIT(インフォメーション・テクノロジー:情報通信)、DG(ディストリビューテッド・ジェネレーション:分解型電源)、C S(カスタマー・サティスファクション:顧客満足度)の三つの視点から合理的でないと生き残れないと言われている。ESCOはこの三点をとり込むことができる数少ないビジネスモデルの一つである。 ESCOの国内市場規模は、2兆〜3兆円と言われている。E S C Oの特徴は省エネルギー機器の導入に際し、省エネルギー量に相当するランニングコスト削減分を保証した上で、その削減分の中から、エスコ料を徴収するシステムであり、顧客は初期投資無しにある一定額のランニングコストの低減分を享受できることになる。通常は分散型エネルギーシステムを工場やビル内にESCOモデルにより導入し、IT技術を駆使してエネルギーマネージメントを行い、一層の省エネルギーを達成しながら、ESCOによる利益の最大化を図ることになる。 現状ではタービンやエンジンを活用したコージェネレーション(熱電供給)システムがESCOモデルの基盤技術になっているが、最近では電力負荷平準化の観点から高性能蓄電池(例えばN a S電池など)を活用したESCOも登場している。将来は一次エネルギーの40%とも言われる膨大な量の中低温排熱を活用できる技術の商用化により、新技術によるE S C Oモデルが成立し、我国の省エネルギーを新しいステージへと導くことになる。 |
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3 エネルギー源多様化の旗手・新エネルギー |
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| 現在、我国で定義している新エネルギーは、供給サイドの新エネルギーと需要サイドの新エネルギーに大別され、前者には再生可能エネルギー、リサイクル型エネルギーなどがある。しかし、持続可能なエネルギーシステムを考える際、国際的に一様に重要視されている新エネルギー源は、再生可能エネルギーである。 再生可能エネルギー源とは、太陽・風力・波力・水力・バイオマス(生物エネルギー)など、地球の自然環境の中で、繰り返し起こっている現象の中から得られる無限に近いエネルギーをいい、エネルギー源の多様化に不可欠となる。特に、太陽や風力のエネルギーは“Intermittent Renewable(間欠性再生可能)”と呼ばれ、出力が不安定で変動も多いため、水力やバイオマスなどと区別しており、既存のシステムに調和させるための新技術の開発が重要となる。 現状における太陽光発電などは未だコストは高いが、クリーンで、枯渇することなく、どこの地域でも得られ、需要にも直結しているという、持続可能なエネルギー需要構造を築くうえでは魅力的な特性を持つため、今後共最大限の導入促進を推進することで、国際的な合意が得られていることは言うまでもない。 これら再生可能エネルギーは、当面、在来エネルギー源の補完的役割として育成していくことになるが、重要なことは、再生可能エネルギーを導入することが、枯渇性のある化石エネルギーの削減となり、自給率の向上と共に化石エネルギーのより長い活用を可能にする省エネルギー技術そのものであることを、まず肝に銘じておきたい。 表−1に2005年に策定された我国における再生可能エネルギーなどの現状と導入目標を示す。すでに述べたように2010年度の供給サイドの新エネルギー導入目標として原油換算で1,910万m3を掲げている。そのうち4%を占める電力分野については、電気事業者に対して一定量以上の新エネルギーによる電気の利用を義務付けるRPS法が2003年4月から前面施行されたことは周知である。
エネ庁が7月8日に発表した2004年度のRPS法施行状況によれば、対象となる電気事業者31社のすべてが2004年度における同法の義務を履行しており、そのうち17社は年度義務量以上の新エネルギーによる電力供給分を次年度の義務履行に繰返す「バイキング」を行っており、義務量が多くなる2008年度に向け積極的な対応が成されている。一方、56%を占めている熱分野については必ずしも導入が順調に進んでいないという指摘も多い。表からも明らかなように太陽熱利用が思っ た程進展していない現状を踏まえ、今回はバイオマス熱利用の拡大策に大きく舵をとった政策目標となっている。バイオマスによる地域活性化効果も見逃せない。法的に取り組みを義務付けられている電力業界に加え、石油業界もバイオエタノールの供給安定や経済性の確保を前提にETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル。欧州ではガソリンへの混入が進められている。)などの自主的な導入に前向きな姿勢を見せている。ガス業界に対してもバイオガスの有効活用などの自主的な対応が期待される。 |
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4 マイクログリッドによる双方向分散型エネルギー需給ネットワークビジネス |
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| さて、これからのエネルギーシステムは、セキュリティー面からみても、既存の大規模集中型発電システムをベースとして、分散型再生可能エネルギーシステムなどとの最適ネットワークの構築が不可欠である。利便性を維持しながら、環境負荷を低減させるという人類の永遠の課題を解決するためには、地域の特性に応じて太陽光、風力、バイオマスやゴミ発電などの新エネルギーと蓄エネルギーを最適にミックスした、あるいはそれらのハイブリットをも視野に入れた新しいエネルギーベストミックスのコミュニティを地域ごとに作っていくことが必要である。この新しい意味でのベストミックスは、各地域で最も環境負荷が小さくかつエネルギーコストが最小になるような最適な解でもある。こうしたエネルギーシステムの再構築こそ今まさに望まれている。 さらに、すでに準商品化された燃料電池などを中心とした小規模型発電の社会になると、一般家庭が発電機をもつようになり、新たなインフラの考え方が必要となってくる。エネルギー源の多様化を可能とするキーテクノロジーである燃料電池は水素と酸素が駆動源となるが、クリーンな水素かあるいは天然ガスやその他水素を含んでいる化合物(水素キャリアと呼ぶ)をいつでもどこでも出し入れでき、まさに水素ハイウェイとも呼べるパイプライン等で都市内や都市間をネットワークすることも可能となる。 一方、日本の電力自由化のスキームも2 0 0 4 年に500kW以上、2005年には50kW以上の需要家が自由化の対象になり2005年には電力取引き所の創設も成された、今後、太陽光、風力、小型燃料電池などの小規模分散型発電がかなり普及することを念頭に置いた電力自由化の設計も喫緊の課題である。例えば、ある地域やコミュニティ内で各家庭や事務所で発電された電力を自由に融通し合えることや、それらを、ITを利用して、需要に対応して最適にマネジメントできるようなスキームの設計や送配電網の高度活用システムの再構築、コミュニティごとのエネルギーマネジメントセンターの設置などである。 また、地域活性化の手法として農林水産業のように食料農産物を供給する一次産業部門が循環型産業構造を目指して、今回の新エネルギー政策のポイントであるバイオマス系残渣で発電や熱供給を行えばエネルギー供給産業を取り込んだ型の新しい統合ビジネスモデルに変革し、地域の金融機関もより魅力ある資金の運用先として産業と金融の好循環を促進できる。まさに産業と金融の一体化政策の具体策であり不況も一気に解決できる可能性もある。 しかし、多くの分散電源が需要地側に入ってくると既存の主系統へ及ぼす影響や信頼性などに問題が生じてくる。現状では電力会社は公益企業として送・配電の一貫体制をとっているが、自由化の進展で公益企業が利益至上の一般企業化することによって、送電網などのインフラに対する投資意欲が薄らいでくる。そのため分散電源の一層の普及には、誰がどのような形で送・配電網の強化を図ることになるのかという大きな課題に直面する。さらに、デジタルエコノミーの出現で高品質の電力の要望も高まり、分散電源の普及と相まってこれらの解決策を早急に検討しなければならない難問である。 その一つのソリューションが図−1に示すようにマイクログリッド(需要地系統)ともいわれる新しいネットワーク概念の導入である。 さて、このマイクログリッドとはどういうものなのか。一口で言えば、さまざまな新エネルギーを組み合わせてIT技術をフルに活用して制御・運用し、安定した電力・熱供給を行うシステムのことである。すでに述べたように一般に新エネルギーは出力が安定しない等、系統側に影響を与えるという課題を抱えているが、変動電源である自然エネルギーとその他の新エネルギーを適切に組み合わせ、これらを制御するシステムを開発することにより、コミュニティ内で安定した電力・熱供給を行うことが可能となり、既存の主系統へ及ぼす負荷を低減させることができ、まさに系統と分散型の双方に win−win の関係をもたらすことになる。 実際には図−1−3に示すように複数の新エネルギー・分散型電源からの電力負荷を独自の制御システムにより、需給マネジメントすることになり、電力の需要家を供給ネットワークの中にとり込んだシステム、すなわちマイクログリッドシステムを形成する。このコンセプトによりマイクログリッドのネットワーク内だけでなく主系統との連携においても最適マネジメントできるクラスターとなる。米国ではこのクラスターを良質なCitizen(市民)と呼んでおり、社会(系統)に対しても良い行為を行う人達(分散型電源)として位置づけている。 通常このマイクログリッドクラスターは電力会社の統計と1点あるいは2点で連携され、系統からの要望に応じて需給コントロールも可能となる。すなわち主系統から見ると、双方向の発電・受電を可能にする新系統システムの登場ということになり、再生可能エネルギーの導入普及に伴い一大ビジネスへ発展する可能性すら秘めている。 図−1からも明らかなように、これまでの発送電システムは、系統に発電所やコージェネレーションシステムなどが一つずつぶら下がっていたが、マイクログリッドシステムでは、通常、系統と1点で連携され、中はループ状となっている。
分散型発電システムだけでなく蓄電池は必須の構成要素となる。将来的には水素貯蔵などの形で、電気を貯蔵できれば、自己完結・独立させることや、併わせて最適熱供給も可能となり、夢は大きく膨らむ。 再度、マイクログリッドシステムの優位性をまとめると、 |
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| @ | 需要増に応じたタイムリーな建設が可能となる。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| A | 送配電システムで生じるロスを軽減できる。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| B | 熱電融通による統合エネルギー効率を向上させ、ネットワーク内で、自然エネルギーの変動を制御し、系統との協調を維持できる。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| C | 自立性の高いエネルギーシステムを構築できる。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| という多くの長所を有しており、今後、新しい系統システムの基盤インフラとして、ビジネスチャンスは限りなく大きい。 いずれにしても、分散型エネルギーシステムに代表される各種新エネルギーの導入・普及により都市と経済の再生効果は極めて大きく、エネルギー自給率の向上と相まって社会も持続可能型へ大きく変化することになる。愛知万博で世界で初めてこのマイクログリッドシステムの実証が行われており、極めて高い制御性が証明されつつある。再生可能エネルギーの本格的商用化を目前に控えマイクログリッドビジネスも一挙に開花する。 |
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このコンテンツは、ALIA NEWS Vol.89(2005.9)から、原文のまま掲載しております。 |
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