創立15周年記念ネットフォーラム
  
      住産業に係る新技術の動向について
定置用燃料電池システムの技術開発動向と将来性

慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科 教授 石谷  久
燃料電池実用化推進協議会 企画第2部 部長 里見 知英


1 はじめに
 低温で作動する小型高電流密度の固体高分子型(PEM)燃料電池(Fuel Cell、以下FCと省略)は宇宙用の電源として’65年、ジェミニ3号で初めて採用された。宇宙開発においてはコストが問題にならず、宇宙飛翔体燃料として酸素、水素を大量に搭載したロケット、宇宙船におけるエネルギー変換装置としてきわめて巧みな選択である。その後この技術は排ガス問題、石油資源依存による資源逼迫、エネルギー安全保障問題などの解決を目指す自動車産業から、究極的な将来技術として期待され、その性能向上、小型化など、実用化を目指した技術開発が熱心に進められてきた。特にFCV(燃料電池車)開発は初期にダイムラー社による強力な推進があり、’99年には小型乗用車の床下に実装されるまでになった。その間、これに刺激された各社の熾烈な技術開発競争が続いて、この数年の間にその信頼性、性能は著しい進歩を遂げ、動的性能において現在の自動車に劣らぬ試作車が実現してデモ走行をすすめるに至った。このPEMFCは低温で作動可能であり、小型小電力FCとして定置用発電装置、特にコージェネシステムとして家庭利用も同時に視野にいれたシステム開発が進められている。
 このような背景のもとで、国としても基礎的な研究開発、並びにその実用化、産業化には高い関心を持ち、経済産業省(当時通商産業省)が ’99年末にまずその将来の展開を検討するFC実用化戦略研究会を組織、1年にわたる検討の結果、その基本的な開発シナリオを固めた。また産業界はその提言に応えてFC実用化推進協議会(FCCJ)を設立、各種関連業界と経済省の技術開発、普及促進政策などの連絡協議会として機能してきたことはよく知られている。
 米国、欧州では我が国以前からFC、FCVなどの技術開発を政府、並びにベンチャーを含む民間で幅広く活発に進めてきたところから我が国政府も危機感を持って積極的にその推進に向かったものである。


2 FCの特徴と応用
 このようなFC技術の開発の背景として、近年世界的にその数と使用が爆発的にのびてきた道路交通、特に乗用車利用における深刻な状況の顕在化があげられる。これに対して以下に示されるFCVのメリットによってこの問題解決が期待されている。
1.地域環境問題:ゼロ排出(排ガス0)のクリーン自動車の実現
2.地球環境問題:高効率化、代替燃料への転換によるCO2排出削減
3.エネルギー資源保全、安全保障:省エネ、代替燃料による脱石油、持続性の確保
4.産業政策として新技術の主導権確保と新規産業創出
 上記、自動車のクリーン化、高効率化並びにCO2削減、エネルギー源の多様化は、現在、全盛のICEV(内燃機関自動車)が抱える本質的な課題であるが、FCVはそのいずれにも対応できる究極の技術と目されている。この様にFCVの開発普及の目的、効果、従って研究開発の動機は自動車用途に対してはきわめて明確である。これに対してFC技術そのものは自動車応用が実現する前から高効率大型発電機として自動車用には適用困難と見られたリン酸型など他の方式ですでに開発が進められていたことからPEMFCで当然小型化、家庭用という期待がわいてきた。それ以上に自動車用としてコスト面でICEVに競合できる価格で実用化できれば価格許容値の高い定置用システムがより容易に実現し、高効率の分散電源実現という期待が高まったことも否めない。
 定置用でも高効率化、CO2削減等自動車用と同様なメリットは認められるが、多少の差違もある。ここでFCCJ、戦略研究会などがまとめた自動車用、定置用両システムの性能目標値を以下に示し、これらの意義や課題における差違を簡単に示すこととする。

図−1 目標設定、価格(’01年末の数値)戦略研究会

 まず自動車用は技術上の問題(立ち上がり時間など)から改質機搭載型の炭化水素液体燃料によるシステムはほぼあきらめられて水素燃料が基本となっている。従って自動車では更に燃料インフラが重要な課題となる。また航続距離を決めるエネルギー搭載総量、つまり水素のエネルギー密度の問題も深刻である。水素については後述するように自然エネルギーなどのエネルギー源分散も同時に視野においている。
 これに対して住宅、家庭用などの定置用では、電気以外の戸別エネルギー供給媒体として一般に普及している都市ガス、LPG、灯油などの改質が念頭にある。この場合、自動車と同様、改質器の立ち上がり時間、その際のエネルギー損失など、連続運転時の効率以外に起動停止に伴う課題が存在する。更に定置用コージェネの競争相手は高効率の発電が可能で排ガス対策もクリアしている天然ガス火力発電による系統電力であり、環境面からみたメリットがどこにあるかを示す必要がある。分散電源の有効性は廃熱の利用可能性に帰着し、熱の完全利用、即ち熱主運転が望ましい。温水器として廃熱を利用する場合には保温タンクによって相当量の需要調整が可能となるので、起動停止を極力少なくすることが可能である。ただ、廃熱を十分利用するにしても日本のように電気需要が多いところは電力変換効率が高いほど稼働率も効率も上がり、FCコージェネの意味がある。一方、高温廃熱は冷房などに有効に使えるので、PEMFCよりもむしろリン酸型が有利であり、事実開発初期には主流であったが、起動停止に不向きであり期待ほど市場が拡がらずコストダウンも進展しないことから、PEM型が小型家庭向き、また自動車産業の開発の結果を利用出来るという期待からPEMFCに期待が移ったという面もある。
 他方、現在の高価格は本格普及の最大の障害である。自動車は出力規模が家庭用電源に比べてかなり大きく、現時点の価格は市場化の点では問題外である。一方、競争相手のICEVの価格は非常に低く、後発のFCV実用化の最大の障害と見られている。これに対して家庭用は比較的許容価格が高い反面で、稼働率、要求耐用年限がきわめて高く、寿命、信頼性の確保という技術上の課題もある。更に家庭用コージェネが供給する電力、熱は既に家庭に供給されているものと同等(であるべきもの)でその差別化はきわめて難しい。FCVの様に実感できる性能差、使用上の優越感もなく経済性がその選択に大きく影響するためコスト削減は絶対条件である。
 FCCJではこのような定置用、自動車用のFCスタックに対する技術的目標値、並びにコスト目標を、現実の技術進歩を考慮しながら常に更新している。特に定置用は自動車に比べてより早い時期の実用化、普及促進を目指して具体的、現実的な目標値をたててその実現に努力している。その内容は詳細にわたるために、文末にまとめて示したが、FCスタック、改質器、インバータなど主要構成部品ごとに短期、長期の性能、コストについて詳細に定量的目標値が検討されている。
 以上、目的や位置づけに多少の差があるにしてもこの基本的な技術の開発、効果については共通な要素も多く、FCCJでも双方の分野における実用化を目指した政策要望、情報交換、あるいは実証試験などの調整を進めている。具体的なシステム開発の主体を見ると自動車側はFCまで含めた自社開発が多いのに対して、定置用はFCシステムと、その応用としてのコージェネ装置、特に天然ガスを用いるコージェネの改質器の開発主体が分業化されたところもあり、その意味で標準化なり、業種間の分担がはっきりしている。またFCシステムの目標値、その他技術課題もよりオープンに議論されているという印象を受ける。これは海外でもほぼ同様でFCを長期的な自社の基幹技術と考えて自社における技術確立を優先する自動車会社と、比較的市場化が早いと見られ、FCスタックをシステムの部品としてOEM製造販売まで意図するメーカーとはその対応がかなり異なるものがある。


3 国家プロジェクトによる実用化技術開発〜ミレニアムプロジェクトと実用化技術開発
 以上の様な背景のもとに、我が国でも家庭用の定置用FCシステム(コージェネ)の開発と実証に関わる試験が行われてきた。その開発経緯は文献4)、5)に詳述されているが、これは以下のように要約される。
 まず ’99年にNEDO委託事業として日本ガス協会で初めて都市ガス燃料の試作機が開発・試験された。翌2000年からは実用機に向けたシステム技術開発として、「固体高分子形燃料電池システム実用化開発」が、また普及のためのソフトインフラ整備を目的として「固体高分子形燃料電池システム普及基盤整備事業」(ミレニアムプロジェクト)がNEDO事業として開始され、国の支援による実用化を目指した本格的な技術開発の取組みが2004年度まで続けられてきた。
 システム実用化開発においては、システムメーカーを始め材料メーカー等多くの民間企業が参画し、電池スタックや改質器といった主要コンポーネントや電解質膜、MEA、セパレーター、触媒等の重要部材、センサーやポンプ等の計装・周辺機器等の開発に取り組み、システムの高性能化、低コスト化に貢献している。例えば電池スタックに関する要素技術開発として、単セルでは750mV@300mA/cm2レベル程度の高性能化が達成され、耐久性でも18千時間で2μV/h、ショートスタックベースでは13千時間で3μV/hの試験実績が報告されている。また高分子電解質膜やMEAの開発では、高温作動化や高出力密度化がすすめられた。
 一方「普及基盤整備事業」では、燃料電池の本格的な普及に向けての標準化や規制緩和を推進するため、性能や安全性試験方法の検討に必要なデータ採取を目的に、毎年各メーカーの開発・改良した様々な仕様の定置用燃料電池システムを集め以下に示す広範な試験が、日本ガス協会を主体として実施されてきた。
1.基本性能試験
@基本性能
・起動/底止試験、発電/排熱回収効率試験
・負荷変動試験
A耐環境製、耐久性・信頼性
・周囲温度・湿度
・耐風・耐雨・塩害
・耐久・信頼性
・振動、衝撃、電磁波
B環境性
・排ガス測定
・騒音測定
2.安全性等評価試験方法の検討
@不活性ガス置換省略
・窒素ガス置換省略時の安全性評価
A設置離隔距離
・正常時温度上昇試験、異常時温度上昇試験
B電気安全
・絶縁抵抗・絶縁耐力試験、サージ電圧影響試験
・耐電圧、ノイズ体量、雷インパルス
C外部/内部異常
・停電/停ガス時の影響
・ガス漏洩時の影響
・制御装置異常時の影響

 試験されたシステムは250Wから5kW級で燃料種は都市ガス、LPG、ナフサにわたり、その数は5年間で海外メーカーも含め16社66台に及んでいる。これらの試験結果は安全性検証、技術基準の整備といった本来の目的に活用されただけでなく、開発メーカーにとって技術課題が抽出され、かつ毎年システム試作機改良の機会が与えられることになり、システムの機能性、信頼性、耐久性向上等の実用化開発の推進にも大きく寄与したといえる。


4 実証試験と定置用燃料電池システム実用化の現状
 現在各メーカーの開発している定置用FCシステムの定格出力は概ね家庭用を目指した1kW級と集合住宅、店舗等を対象とした5〜10kW級に大別されるが、国内メーカーは1kW級に集中している。家庭用1kWは我が国の熱需要に対応したものであり、さらに熱需要を平準化するために温水タンクを備えるのが普通である。燃料種は家庭での一般的な燃料である都市ガス(天然ガス系)とLPGが主体であるが、安価な灯油等を指向したシステムも開発、試験されている。
 1kW級システムでは、性能的には燃料種にかかわらず発電効率30%以上、排熱回収効率40%以上という家庭用燃料電池導入初期段階の目標値とされるレベルを達成している。(最高性能では発電効率34%、総合効率80%以上の機種も開発)。本体サイズは容積が200〜300 、重量は公開データが少ないが150〜200kgと推定され、開発当初と比べるとかなり洗練されコンパクトなパッケージ化が進んだが、日本の住宅事情を考慮すると一層のコンパクト化、また軽量化が今後の重要な課題となっている。
 これらのシステムは各種試験でその性能は実証されてきたが、実用化の課題である耐久性、信頼性については実用性検証に充分なレベルには至っていない。他方で1万時間程度のシステム運転実績や、フルスタックベースでの1万時間を越える耐久試験で電圧降下率が2〜3μV/hといった良好な結果も公開されてきた。またシステムの起動停止や設置環境等の影響を含めた評価は実機の実時間で検証する必要があり、今後の実績を蓄積していくことが重要である。加速試験手法が確立されていない現状において、開発の歴史の浅い定置用燃料電池ではやむを得ない面もあるが、早急に実証が求められる重要な事項である。
 このような状況において、実際の住宅にFCコージェネシステムを設置して機器の特性と適用性を検証する「定置用燃料電池実証研究」が、FCV実証試験と並行して、経済産業省のプロジェクトとして平成14年から16年度にかけて新エネルギー財団の下で実施され、その成果が報告されている。初年度の14年から15年にかけては、全国13のサイトで6社(メーカー)から提供された8機種の定置用燃料電池システムが、1年間にわたって戸建や集合住宅、店舗等で試験された。これに引き続いて15年から16年にかけての第2期では、新たな全国33サイトにおいて、海外メーカーを含む11社19機種というほとんどのシステムメーカーの開発機を網羅した試験に拡大し、住宅、店舗、オフィスビルといった対象施設で環境、エネルギー需要に関してさまざまな利用条件の下、実証試験が進められてきた。燃料種も天然ガス、LPGをはじめナフサ、灯油、水素とほとんどの燃料をカバーしている。(表−1)
表−1 定置用燃料電池実証試験サイト(H15−H16)
地 区 FC出力 燃料種 施設条件 サイト名 設置・運転試験者 システム提供者
北海道・
東北地区
1kW級 都市ガス 一戸建住宅 石狩 北海道電力 松下電器
札幌第2 日本ガス協会 荏原製作所
LPG 一戸建住宅 室蘭 室蘭テクノセンタ 新日本石油
5kW級 都市ガス オフィスビル 仙台 ユアテック 丸紅
LPG 集合住宅 秋田男鹿 ジャパンエナジ 丸紅
灯油 集合住宅 苫小牧 出光興産 石川島播磨重工
関東地区 1kW級 都市ガス 一戸建住宅 川崎第2 荏原製作所 荏原製作所
一戸建住宅 世田谷 東京電力 荏原製作所
世田谷第2 日本ガス協会 三洋電機
つくば 積水化学工業 東芝IFC
集合住宅 中野 生活価値創造住宅
発技術研究組合
三洋電機
LPG 一戸建住宅 草加 NTTデータ 新日本石油
5kW級 都市ガス 集合住宅 浦和 関電工 栗田工業
店舗 天王洲 シナネン 栗田工業
オフィスビル 湾岸 日本ガス協会 石川島播磨重工
灯油 店舗 品川 トキワ 新日本石油
中部・北陸
地区
1kW級 都市ガス 一戸建住宅 富山 北陸電力 三洋電機
長岡 新潟県 東芝IFC
新潟 日本ガス協会 三洋電機
LPG オフィスビル 岐阜中津川 岐阜県 松下電器
5kW級 ナフサ 一戸建住宅 金沢 松村物産 新日本石油
近畿・東海
地区
1kW級 都市ガス 一戸建住宅 静岡 日本ガス協会 荏原製作所
名古屋第2 日本ガス協会 トヨタ自動車
集合住宅 大阪 日本ガス協会 松下電器
LPG 一戸建住宅 奈良桜井 関西電力 松下電器
5kW級 都市ガス 集合住宅 名古屋第3 日本ガス協会 丸紅
中国・四国・
九州地区
1kW級 都市ガス 一戸建住宅 筑紫野 九州電力 荏原製作所
広島第1 中国電力 日立H&L
広島第2 日本ガス協会 三菱重工
福岡第2 日本ガス協会 松下電器
LPG 集合住宅 愛媛菊間 太陽石油 東芝IFC
16年度新規 1kW級 水素 一戸建住宅 荒川 東京ガス 荏原製作所
集合住宅 大分 九州石油 東芝IFC
系統連系影
響評価試験
実験設備 赤城 電力中央研究所 三洋電機
 報告されている試験結果から、図−2にサイトに設置された燃料電池システムの性能比較を示す。当初25〜31%の範囲であった発電効率が、15年度になると多くの機種で30%を超えてきており、性能面で全体的な技術の向上がうかがえる。また水素燃料の場合は当然ながらより高い発電効率が示されている。
 信頼性評価の基礎となる停止要因の分類を図−3に示す。補機や制御系が要因での停止が多くなっており、開発過程の印象がつよいが、半面主要構成要素である電池スタック本体や改質器でのトラブルは比較的少なくなっている。また年次ごとの比較をみると、これら主要要素機器による停止件数が大きく改善されてきており、実用化にむけた開発成果の現われと考えられる。

図−2 実証試験供試システムの発電効率の推移

図−3 実証試験供試システムの停止要因
 図−4に15年度設置サイトでの一次エネルギー削減率と給湯負荷の関係を示す。前年度のサイトに比べてほとんどのサイトで一次エネルギー削減効果が見られるようになってきている。これは、発電・熱回収効率の向上や起動時のエネルギー低減等の技術開発が進展し、また需要に応じた効果的な運転方法の改善等の効果によるものであると評価される。また、給湯負荷も一次エネルギー削減効果の発現に大きく関係しており、現状の家庭用燃料電池システムでは概ね10kWh/日以上の給湯需要のある場合に削減効果が得られるということが示された。最大では20%の一次エネルギー削減効果が認められている。今後、停止時や待機エネルギーの低減や低負荷時の効率向上等の開発が進めば、より一層の一次エネルギー削減効果が期待される。

図−4 実証試験サイトでのエネルギー削減効率
 一方、CO2の排出削減効果について発電効率、熱利用効率との関係を図−5に示す。運用上の発電効率は機器単体の発電効率から若干下がるものの、多くのケースで25〜30%の範囲にあり、熱利用効率も20%以上と良好な運用特性を示しており、最大では総合効率で70%近くを達成しているサイトもある。この結果、CO2の排出削減効果も大半のサイトで20%以上(火力発電所対比)を達成できることが実証された。なお、ここで系統電力は火力発電平均原単位を仮定しているので、状況によって効果が異なることに注意する必要がある。

図−5 実証試験サイトでのCO2削減効率
 さらに、16年度には化石燃料以外の燃料種として純水素燃料の定置用燃料電池が2サイトに設置された。このサイトでの試験結果も上述の各図に併記して示している。燃料電池システム単独の発電効率で37%以上を達成しており、一次エネルギー削減率も給湯負荷が小さいサイトであっても20%以上と、他の化石燃料ベースの燃料電池システムよりも優れた結果を呈している。これは化石燃料駆動の燃料電池システム内での水素製造効率を加味するとそれほど際立った数値とはいい難いが、初めて開発されたシステムで今後の改良開発の余地が大きいこと、すばやい起動停止や高い部分負荷効率が検証されたことなどから、将来の水素社会実現時の高いポテンシャルが実証されたといえる。


5 本格的実用化への取り組み
 2000年から本格的なシステム開発が始まった定置用燃料電池は、今、初期性能としては導入期の目標値をクリアし、起動停止等の機能性の面でも実用的なシステムが製作されるようになってきた。一方、本格的な普及のための重要な要件である信頼性や耐久性については、まさに実証が続けられている段階であるが、商品機に求められるレベルを見通せる段階になく、引き続きさらなる向上が求められている。
 また、実用化に必要なもうひとつの重要な要因であるコストについては、開発途上ということもあり現状では目標値と比べてかなりの高価格となっている。これは、製作数が少ない状態で量産体制が取れていないといった面もあるが、それ以上に性能、信頼性、耐久性といった開発目標達成を第一義とし、そのために高級な材料や部品の採用、重厚なシステム設計に配慮し、コスト面での目標達成を後回しにせざるを得ないという開発事情によるところが大きい。
 実用機レベルの技術に近づいてきた現在、今後はコストダウンに向けた開発が大きな課題となってきている。平成17年度からは、新たに国家プロジェクトとして定置用燃料電池大規模実証試験が開始され、年間400台から1,000台規模での実証試験が始まろうとしている。この試験ではまとまった数量のシステム製造の機会が生じ、量産等を目指した製造技術の開発も必要になり、コストダウンに貢献するものと期待される。また、数多くの実環境での運転実績を積むことによるメンテナンス性の向上等のランニングコスト低減も期待され、本格普及のための大きなステップとして期待されている。


6 水素社会(経済)と定置用燃料電池
 燃料電池、特にPEMFCとリンクして水素社会(語源の英語は水素経済)という概念が提案、強調されているが、その意義と条件について最後に簡単に触れておきたい。
 FCの燃料としては本来、水素がもっとも効率的、また直接的に反応可能で水素燃料が実現した場合にはクリーン、高効率に電力を得ることができる。電力は周知の様に制御性、高効率性、利便性などから近年の主要なエネルギー源としてそのシェアが確実に伸びている。特に最終需要地では電力は応用範囲が広く、エクセルギー的にも価値の高いエネルギー源として有効である。他方で電力はその貯蔵が非常に困難であり、電力の搬送も送電線以外には現実的な手段が存在しない。
 現在の主要なエネルギー資源である化石燃料は、石油はもとより気体の天然ガスですら液化して長距離輸送が可能であり、これらのかなりの部分は電力に変換されている。他方で化石燃料消費はエネルギー資源問題と、C O 2排出の課題が顕在化して持続的なエネルギーとして他の手段、特にCO2排出削減可能な資源への移行が大きな課題としてあがってきている。従って化石燃料起源のエネルギー消費を考える際にはとにかく全体としての効率、いわゆるエネルギーチェーンサイクル全体の総合効率が高い利用方法が好ましい。その場合には電力利用サイトにおける発電、すなわち分散電源によって電力変換時の廃熱を利用するコージェネが一つのオプションとなる。ICEコージェネに比べてFCは排ガスがクリーンであること、発電効率が高いことなどが特徴としてあげられるが、前述の様に集中電源である大規模火力発電所の総合効率と競争するには相当高い性能が要求される。
 また長期的なエネルギー資源問題、CO2排出削減を考えるとCO2低排出の原子力、自然エネルギー利用が将来の目標となるが、いずれもこれらは電力で有効に得られることが多く、これを更に水素に変換することは貯蔵が伴わないと意義がない。水素社会という言葉は本来このような化石燃料以外のエネルギー源、特に電力を一度水素に変換して貯蔵、輸送して、再度消費地で効率の高いFCで電力に戻すという発想が念頭にあったものといえる。この場合には当然、水素への効率的変換と、その貯蔵、輸送が最大の課題となり、特に水素の大陸間輸送は大きな課題となる。国内の様に送電線で電力の直接輸送が可能である場合には水素への変換は意味を失う。一方で自然エネルギー電力など不安定な供給システムに対して需給ギャップを水素で調整することを考えると、これも結局、水素貯蔵の問題に帰着する。他方、適当な手段で水素が直接家庭など末端の需要端で容易に、かつ安価に得られるようになるとこれを効率よく発電可能なFCシステムはきわめて重要な意味を持つようになる。特に純水素燃料のFCシステムは当然、改質型にくらべて単純でコストも下がり運用上も多くのメリットがある。即ち、起動停止が容易、起動遅れも損失も低減し、負荷追随運転も可能となる。CO被毒による劣化もなく、効率も高く、一層省エネ効果が出る。こういった意味で自動車と同様、純水素配給インフラと純水素FCコージェネシステムは将来の大きなキーとなるセット技術といえる。
 もう一つの大きなオプションは化石燃料をCSS(CO2の隔離貯蔵)によってCO2を排出することなく、集中的に水素に転換してこれを需要地点に輸送、需要端で再度発電、電力、熱を利用するというタイプである。これは化石燃料を利用しつつ、CO2排出を抑制するという数少ないオプションであるが、有限の化石燃料を利用するということから当然その変換ロスは極力低減する必要があり、高効率、かつクリーンなFCが期待される。この場合には水素を分散配布する必要があり、水素パイプラインなどが必要となるが、これは同時に多少の貯蔵能力を持ち、現在の天然ガス配管と同様なイメージとなる。このあたりがFCと結びついた将来の水素社会のイメージであろうが、この場合、比較対象は大規模高効率発電所であり、FCの廃熱利用のメリットと水素分配+発電効率差の利害得失が全体のメリットを左右することになる。このあたりは現在のコージェネの議論と類似の議論となるので、需要、供給を十分に配慮した評価が必要である。
〈文献〉
1) NEDO:燃料電池・水素技術開発成果報告会要旨集(平成15年度)
2) 新エネルギー財団:平成16年度定置用燃料電池実証研究成果報告会資料
3) FCDIC:燃料電池 Vol.4, No.3
4) 金子彰一:家庭用固体高分子形燃料電池の技術動向;OHM誌 2004年9月, P33-36
5) 里見知英:定置用燃料電池実用化への技術開発;電気学会誌 Vol.125, No6, 2005年6月

U.定置用燃料電池(1)

U.定置用燃料電池(2)


U.定置用燃料電池(3)

このコンテンツは、ALIA NEWS Vol.89(2005.9)から、原文のまま掲載しております。
社団法人リビングアメニティ協会