創立15周年記念ネットフォーラム
  
      住産業に係る新技術の動向について
東京ガスにおける家庭用燃料電池コージェネレーションシステム開発

東京ガス(株) R&D企画部 西崎 邦博


1 はじめに
 地球温暖化防止に関する京都議定書が2005年2月に発効され、CO2 排出抑制が今まで以上に急務の課題となってきた。1990年度からのCO2 排出量部門別トレンドをみると、産業部門ではほぼ横ばいなのに対して運輸部門と民生部門ではいずれも高い伸びを示しており、特に両部門における省エネ・省CO2 への取組強化が不可避となっている。
 固体高分子形燃料電池(以下、PEFC)は、自動車や家庭用分散電源分野において高効率システムの創造を可能とすることから、上記背景とも相俟ってエネルギー利用新時代の扉を開く「鍵」として期待され、PEFCおよびそのアプリケーション開発には世界中の様々な研究機関や企業において多大な開発リソースが投入されている。そんな中、我が国においては限定的ながら2002年度第3四半期の燃料電池自動車の市場導入に続き、2004年度第4四半期には家庭用燃料電池コージェネレーションシステム(以下、コージェネ)の市場導入が開始された。
 本稿では、東京ガスが荏原バラード株式会社(以下、荏原バラード)、松下電器産業株式会社(以下、松下電器)各社と共同開発を行い、2005年2月8日より世界に先駆けて市場投入を開始した家庭用PEFCコージェネの開発への取組みについて紹介する。


2 家庭用燃料電池の仕様
 小出力でも発電効率が高く部分負荷効率も高いという燃料電池一般の特徴に加え、PEFCは起動停止が容易で、高い出力密度ゆえに小型化が可能であり、燃料電池自動車やモバイル用電源と共に、家庭用熱電併給システム(コージェネ)としての応用が期待されている。家庭において発電と同時に発生する排熱を温水として回収利用することで、高効率のエネルギー利用システムが実現可能となる。
 東京ガスでは1998年から家庭用PEFCコージェネの本格開発に着手し、2003年より荏原バラードと松下電器とそれぞれ共同開発を開始し、要素技術開発や実運転データ蓄積を行ってきた。さらにこれらの知見を反映させつつ数度のシステム改良を経て、家庭用PEFCコージェネ「LIFUEL」(ライフエル)の市場導入を開始した。家庭で使う燃料電池としては限定的な範囲・台数ではあるが世界初となる。第一号機は荏原バラード製、松下電器製各1台が総理新公邸に設置された(写真−1)。

写真−1 総理新公邸での導入式典の模様 
 「LIFUEL」は、都市ガスを燃料としてPEFCによって電力(定格出力1kW)と排熱による温水を発生させる「燃料電池ユニット」と、温水を一時的に貯蔵し、その温水を需要に応じて供給する「貯湯ユニット」の2つのユニットから構成されている(写真−2)。システムの主な仕様を表−1に示す。なお、表−1では定格時の発電効率が31%HHV以上、熱回収効率が40%HHV以上となっているが、実際の実力としては、それぞれ33%HHV、45%HHV程度が得られている。
松下電器製 荏原バラード製
写真−2 システム外観

表−1 システムの主な仕様
項 目 EBC 松下
燃料電池ユニット 定格出力 1kW
発電効率 31%(HHV)以上
熱回収効率 40%(HHV)以上
熱回収温度 60℃以上
本体寸法 800W 800W
350D 375D
800H 1000H
重量(dry) 158kg 175kg
騒音(発電) 43dB 175kg
貯湯ユニット 本体寸法 800W 850W
530D 510D
1850H 1900H
重量(dry) 154kg 140kg
タンク容量 200L
最大使用圧力 0.4MPa
バックアップ熱源機 有り

 また実運用では家庭電力需要に応じて発電出力を増減するため、定格ではなく部分負荷で発電している時間帯も多い。従って運転全体を通して高効率な発電を実現するためには、部分負荷特性が優れていることが重要となる。この点では燃料電池システムの特性を活かし、定格運転から50%出力運転まで発電効率がほぼフラットなシステムの実現に成功している(図−1)。

図−1 システム部分負担特性


3 商品化課題解決への取り組み
 PEFCは水素を燃料として発電を行うが、家庭には水素が供給されていないため、燃料供給インフラが確立している都市ガスから水素を作ることになる。従っ
て家庭用PEFCコージェネ実現には、都市ガスから水素を製造する燃料処理装置の開発が必須である。
 またこれまでにない新しいシステムであり、運転制御開発や性能評価についても、試験方法を確立しつつ様々な側面から検証を行う必要がある。他にも設置・施工・試運転方法・メンテ方法に関する検討や、取扱説明書・工事説明書などのドキュメント整備など、システム導入に際するアクティビティは多岐にわたる。以下にその一端を紹介する。

3−1.燃料処理装置の開発
 PEFCコージェネにとって、燃料処理技術は高い性能を達成するため必須の技術である。当社はコンパクト化と高効率化を目指し、水蒸気改質、CO変成器、CO除去器、蒸発器及びその他の機能を一体化したことを特徴とする一体型燃料処理装置の開発を行ってきた。
 2000年に83%(HHV)の燃料処理効率(都市ガスから水素を製造する際のエネルギー変換効率)とφ200mm×600mm(19L)の小容量を実証し、その後、この優位点は確保しつつ、低出力時の燃料処理効率の改善、構造の簡素化による製作コスト・重量の削減など、商品化に向けた一層の改良に取り組んできた。2000年の時点では、その高効率化と小型化を実現するために10重管構造となっていたが、これを、燃料処理装置内部の伝熱設計の最適化、触媒エンジニアリングによる最適な触媒組み合わせの実現などによって、従来開発品に対して、その重量を約1/2とする大幅な構造の簡素化(4重管構造)するとともに、最低出力時効率を5ポイント向上させた。また、この構造簡素化により、重量、部品数、溶接線長などを半減できたため、従来開発品に対する大幅なコストダウンが可能となった。(写真−3、図−2)

写真−3 燃料処理装置外観

図−2 燃料処理装置部分負荷特性

3−2.運転制御技術の開発
 省エネ性、二酸化炭素排出抑制といったPEFCコージェネの特長を最大限に発揮するための運転制御システムを開発した。これは過去データを基に需要を予測し、風呂の湯張りなど、温水需要が大きい時間帯に合わせて貯湯槽の蓄熱を100%近くとなるよう制御すると同時に、システムの耐久性向上やエネルギーロス低減の観点から、起動停止回数を1日1回程度に抑制するよう、その日の運転計画を自動的に決定するものである。
 実際の運転状況例(図−3)を見ると、夜の温水需要ピークに合わせて午前中から発電を開始し、以降電力負荷追従を行いながら運転することで、P E F Cコージェネの電力、温水共に有効活用できることが分かる。

図−3 家庭用燃料電池コージェネの運転例

 なお、温水を余らせない運転を行うようにプログラミングされており毎日起動停止をすることを基本としているが、熱需要が非常に大きく、かつ、電力需要が300W以上ある場合で、省エネ性がより発揮できると計算される場合は、結果として毎日起動停止ではなく連続運転を行う場合もある。

3−3.システムの耐久性
 家庭用PEFCコージェネが安定して性能を発揮するには、PEFC本体(以下、セルスタック)の電解質膜や電極触媒、燃料処理装置の各種触媒等の性能低下を、起動停止や連続運転等の様々な運転状態で、ある程度の範囲に抑える必要がある。
 燃料処理装置の触媒については、りん酸形燃料電池向けに開発・実証された触媒を基本としているものが多く、連続運転については、ある程度の耐久性の見通しは得られている。大きな課題は、窒素パージを無くした上での起動停止に対する耐久性である。図−4は東京ガスで開発した燃料処理装置を実際のシステムと同じ手順で起動停止を繰り返した時の燃料処理効率とメタン転化率(都市ガスを水素に分解する割合)を示している。1,000回の起動停止後も初期と比較して変化が殆どなく、問題ないことが確認できた。本装置は、1,000回の起動停止後に連続運転での耐久試験を継続しているが、特性は殆ど変化せず安定して耐久試験を継続している。

図−4 燃料処理装置の起動停止耐久試験結果

 セルスタックにおいては、電極触媒の起動停止および連続運転状態での劣化に加えて、電解質膜そのものが劣化しクロスリークを起こす現象を防ぐ必要がある。ここでも燃料処理装置と同様に起動停止による劣化を抑えることが重要である。実際のシステムに搭載した状態で起動停止(窒素不使用)の反復耐久試験を行った時のセルスタックの電圧変化の様子を示す。窒素パージ無しでの2,000回以上の起動停止でも大きな劣化は見られず(図−5)、その後も試験を継続中である。

図−5 システム起動停止試験におけるセルスタックの電圧推移

3−4.商品化開発
 最終的にお客様のお手元に届けるためには、商品としての仕上げの開発が必要となる。
 具体的には、
@ 性能から安全性までを含む機器仕様の決定と各仕様に対する試験方法の確立、さらには検証試験の実施と確認・改善
A 設置・施工・メンテナンスに関わる仕様の決定と各仕様の検証・改善
取扱説明書、工事説明書、メンテナンス要領書などの各種ドキュメントの整備
等が上げられる。
 家庭用PEFCコージェネは、世界初の商品であったことから、安全性まで含めた基準は存在しなかった。東京ガスではメーカと協力して、発電機能に関する部分は、日本電機工業会で作成した家庭用PEFCの自主安全基準を参考に、給湯機能に関連する部分は従来のガス消費機器の基準を参考にし、性能および安全に関する基準を独自に策定した。基準は、構造一般、保護機能、電装関係、故障解析、耐環境性、機能・性能・貯湯ユニット性能の7つの構成となっている。これらの基準を用いて各種試験を実施し、基準を満たすべくメーカと協力して改善した。
 同様に、設計、施工、メンテナンス、各種ドキュメント整備に関しても一からの作りこみおよび検証を実施した。

3−5.省エネルギー性
 2004年度には商品機のプロトタイプ(2003年度機)を用いて実際の家庭でのフィールド試験を7箇所で実施し、前述の運転制御技術の開発・実証や省エネルギー性の評価などを行った。実際の運転は、家庭の電力と給湯の需要に大きく左右され、運転時間で2,000〜4,000時間/年のばらつきがあり、その間の平均発電電力は600W程度であった。運転時間に差がでた理由は2つあり、ひとつは給湯需要に合わせた運転制御であることから、給湯需要が小さい場合は運転しないこと。もう一つは電力需要が300W以上でないと運転開始しない制御になっていることから、電力需要が小さい場合に停止していたことである。特に後者は、最近の家電製品の待機電力が大幅に改善されていることが大きく関係しており、今後は300W以下の電力需要でも運転可能な仕様にする必要がある。
 省エネルギー性は、一週間連続の積算データを用いて家庭の需要を従来システム(火力発電所+ガス給湯器)で賄った場合と、PEFCコージェネ導入後の実績との差分により算出した。その結果、電力と給湯の需要への依存度(特に給湯については水温との相関)が高いが、年間を通じて5〜15%程度の省エネルギー性が確認できた。また、現状のシステムにおいてこの程度の省エネルギー性を発揮するためには、ある程度の電力と給湯の需要がある家庭に設置することが望ましく、その目安としては、電力および給湯とも10kWh/日以上の需要があることが望ましいとの結果となった。


4 今後の展開

4−1.技術的課題
 今後、普及を拡大していくための課題は性能向上を含めて複数あるが、特に重要なことは耐久性とコストである。耐久性については、最終的には10年相当(4万時間以上運転かつ4,000回以上起動停止)が必要であるが、現状は3年相当程度までしか確認が取れていない。従って、早期に4万時間以上運転かつ4,000回以上起動停止に対する耐久性の確認を行う必要がある。一方で普及拡大のためには、コストダウンも避けて通れない。コストダウンは、技術革新と量産効果の2方面から攻める必要がある。ユーザーとしては、技術革新はメーカに期待するものが大きく、量産効果については市場が拡大できる仕様の設定や共通にできる仕様は共通にしてメーカ間で同じ部品が共用できるなどの取り組みも重要である。後者については、その実現に向けてエネルギー会社やメーカ間での協議がスタートしており、東京ガスとしても積極的に議論をしていきたい。

4−2.市場導入
 東京ガスでは、市場導入に際して税込9,500円を上限とする家庭用燃料電池向けのガス料金を新設すると共に、一般ユーザー等を対象にしたFCパートナーシップ契約の締結によりシステム利用に関する運転データや使用感等の意見を収集、これを開発へフィードバックし、普及期に向けてシステムの性能を一段と高める計画で、新エネルギー財団が今年度から推進する「定置用燃料電池大規模実証事業」にも参画しながら、初期市場の形成を行っていく計画である。そして、2008年度以降、年間数千〜数万台の販売による本格的な普及をめざす。


5 おわりに
 家庭用燃料電池コージェネは、限定的ではあるが市場導入に漕ぎ着けることができた。とは言え、本格的に普及させるためには耐久性やコストなど解決すべき課題は今なお多い。しかしながら、CO2 排出量抑制などの環境問題とも絡んで、世の中に普及させていくべきである、との周囲からの期待も大きい。
 長足の進歩を遂げている真最中の新技術とともに、実際にお使いいただくお客様のご意見等を取り入れつつ、今後も関係各所と協力し、「共に育てる燃料電池」との認識のもと、開発と普及を推進していく。

このコンテンツは、ALIA NEWS Vol.89(2005.9)から、原文のまま掲載しております。
社団法人リビングアメニティ協会