創立15周年記念ネットフォーラム
  
      住産業に係る新技術の動向について
ソーラー建築設計における太陽と建築のエネルギー対決と調和

工学院大学名誉教授
元日本太陽エネルギー学会会長
中島 康孝


1 まえがき
 建築の設計において建築家は、太陽光との激しい取組み合いをしてきた。この事は太古の住居から今日の近代建築まで続いている。従って、建築とは人間と太陽光との格闘の結果であると云っても過言ではない。この太陽光との戦いでは、建築を歴史的にみて、その戦い方に大きな2つの変革がもたらされた。その第1変革(光と建築との第一の建築革命と呼ぶ)は、産業革命による大型板ガラスの生産によってもたらされた、大ガラス建築の実現である。1851年ロンドンで開催された万国博覧会会場として出現したクリスタルパレスは、正に第一の建築革命を象徴している大ガラス建築の始まりで、シェルターとしてのこれまでの建築に、初めて大いなる光が差し込み、以降、建築家は光から開放された。そして、この第一の建築革命から、今や建築家は鉄とガラスを自在に操ることができ、今日の超高層ビルや大空間アトリウムといった近代建築をもたらしたといえる。そして第二の建築革命は、20世紀末から21世紀に入って、本格的普及が始まった太陽熱利用( ソーラーシステム)および太陽光発電(photovolteic=pv)を備えた建築、即ちソーラー建築である。それは、太陽光を光にとどまらず、熱や電気エネルギーとして活用しようとする機能を建築の一部の建材機能として捉えることで、建築家は初めてエネルギーから開放されようとしている。建築のおけるエネルギー利用の給湯・暖冷房などの熱利用と照明動力などの電力利用とは、19〜20世紀に確立した化石燃料を中心としたエネルギーインフラによって、便利で安いエネルギーの供給を得てきた。この時、建築家は、建築の設計における太陽光との真剣な格闘はこれを放棄し、化石燃料エネルギー技術にその権利を預けてきてしまった時期が長く続いて今日に至っている。けれども、皮肉にも21世紀の地球環境問題が彼等に太陽光との戦いを再び甦らせる結果となった。
 従って、ソーラー建築を設計することで、クリーンエネルギーを建築に必要な熱エネルギーや電気エネルギーに活用することで、地球温暖化防止に役立つ建築を造ろうということである。しかも、建物に照射される限られた太陽エネルギーを最も効果的に取り込み利用する設計は、屋根全体に太陽集熱器や太陽電池を設置すればよいほど単純ではない。
 ソーラー建築の設計では、建築の給湯、暖冷房、電力などに必要な様々なエネルギーを太陽エネルギーでどれだけ多く賄えたかという、評価(太陽依存率)を高めるためのパッシブソーラーシステムとアクティブソーラーシステムとの調和や、太陽熱利用と太陽光発電との効果的組合せを決めることは基より、コスト(イニシャルコスト、ランニングコスト)、耐久性、デザイン性など様々な要素を総合的に評価して設計される。
 そこで、ソーラー建築を設計する時、より高い太陽依存率を得るため、パッシブソーラーシステムとアクティブソーラーシステムの役割分担をはじめ、熱需要と電力需要を把握して、太陽集熱利用と太陽光発電の適正割合を決めねばならない。
 ここでは熱利用と発電利用のそれぞれについて設計上の特徴について整理し、併せて、日本建築学会が進めているソーラー建築のシステム標準化などの一部を紹介する。ソーラー建築を考慮すべき事項について述べる。


2 太陽熱利用システムの設計の特徴
 建築における必要エネルギー量として給湯用、暖冷房用、電力用等目的別に把握しておく必要がある。わが国の非住宅、住宅それぞれの目的別年間消費エネルギー量の割合は、図−1のようなデータが得られている。

図−1 建築における目的別年間エネルギー消費割合(日本)

 つまり、非住宅および住宅共に熱利用が63〜65%、電力が35〜37%と、建築では熱利用の割合が大きい。従って、太陽エネルギーを、集熱と光発電とを組合せて、利用するのが合理的である。

建物の必要熱エネルギー変動と太陽エネルギーの変動
 太陽熱利用システムにおける集熱器面積の合理的決め方が厄介なのは、建物の必要熱エネルギーが時間変動のみならず、季節変動が大きいことである。図−2にわが国の住宅の1世帯当りの給湯、暖冷房月別エネルギー量を示す。一方太陽エネルギー量もまた、図−3(東京の例)のように月別日射量が大きく変動する。

図−2 給湯・冷暖房エネルギー消費量(全国平均)


図−3 日射量時間変動と月変化(東京)1) 2)

 太陽熱利用の場合、太陽光発電のような電力系統連系ができないので、建築自体で熱需要と供給がバランス良く完結されねばならない。つまり集熱器の設置角度と集熱面積を冬季に合わせると中間期と夏季には太陽熱が余ることとなる。


3 太陽光発電システムの設計の特徴
 太陽光発電システム(PV)には、独立電源システムと系統連系システムとがあるが、わが国では、建物のある所は必ず、電力会社の電力系統が入っていることから、離島以外は全て後者のシステムが採用される。従って、
仮に建築の電力需要量に対し、太陽光発電が過剰でも、これを電力会社の系統に逆潮させ、買い取ってもらうことのできるPV設置者にとって、好都合な制度となっている。ただしPVが広く普及した将来もこの系統連系が存続されていることが条件となる。
 従って、PVによるソーラー建築の設計では、需要電力量に関係なく、経済的に許されれば、屋根全面に太陽電池を設置しても良いという設計となる。電力需要の季節変動は図−4のように熱需要に見るほど大きな変動はないので、太陽電池PVの設置角度は地域によって差はあるものの(最大となる角度は札幌35.3度、東京32.7度、那覇17.9度)30度前後としてよい。

図−4 月別電力消費量(全国平均)2)

 むしろ、モジュールの配線と影の掛かり具合によっては発電変換効率が大幅にダウンするという現象を考慮して設計する。
 図−5は、日本の18都市における、発電用、給湯暖房、冷暖房給湯など、それぞれ年間最大になる傾斜角と、水平、垂直面の年平均日射量(MJ/m2・日又は、kwh/m2・日)の値を表している。

図−5 年平均傾斜面日射量[集熱、発電用]1) 2)


4 日本建築学会が進めているソーラー建築のシステム標準化とコード番号及び名称
 ソーラー建築においては、建築および冷暖房給湯照明等設備をそのままに、単にエネルギー源のみを化石燃料から太陽エネルギーに代えるのではなく、建築および設備共に、太陽エネルギー利用に相応しいシステムでなければならない。即ち、パッシブソーラー建築とアクティブソーラー設備システムを組み合わせたソーラー建築である。
 一方、建築家にソーラー建築の積極的な取組みを容易にするためには、システムなど標準化が必要である。そこで、太陽と建築のエネルギー対決の結果として、次のような標準化が進められつつある。いずれは、日本建築学会へのアカデミックスタンダードとして制定される予定であるが、その一部を紹介する。
・熱環境を保つ手法の標準化
・集め、蓄え、使う方法の標準化
・光発電の設置形態別の標準化
・納まりの標準化
・性能の標準化
・評価の標準化
・維持管理の標準化

4−1 室内の熱環境を保つ手法の標準化(図−6)
 熱環境を保つとは、建築を取り巻く大気の温度と湿度、日射と風、雨と雪、そして大地の地中温と水分など外的環境の年、日、時間変動に対して、建物内において熱的に快適な住居空間を保つことをいう。この快適な環境条件は普通の着衣でくつろいだ状態では、一般に室内温度、湿度、日射を含む輻射、通風を含む気流など四要素で決まる有効温度や、効果温度などの熱環境指標の設定によって得られることが多い。
 夏は、日射と外気温度による熱取得量を減らし、室内温度を除去する。冬は、日射をおおいに取り入れ、熱損失量を減らし室温を安定させる。その手法は、前者には主として「通風」と「防熱」、後者には「断熱」と「蓄熱」などが重要な要素となる。その動きの特徴と限界を十分認識した上で、組み合わせと採用順序を決めることが肝要である。

図−6 室内の熱環境を保つ手法の標準化 2)

4−2 太陽エネルギーを集め、蓄え、使う方法の標準化
 太陽エネルギーを集め、蓄え、そして使う方法は、主として設備がこれを担うので、これまでは、建築家が直接設計せず、建築設備士が実質的に設計していた。しかしながら、ソーラー建築では、建築とソーラー設備を一体的に設計する必要があることから以下のように建築の基本計画において建築家の分かる標準化を進めている。
(1)集める手法の建築部位別分類の標準化(図−7)

図−7 集める手法の建築部位別分類の標準化 2)
(2)蓄える手法の建築部位別の標準化(図−8)

図−8 蓄える手法の建築部位別の標準化 2)
(3)熱分配し使う方式分類の標準化(図−9)

図−9 熱分配し使う方式分類の標準化 2)3)

4−3 光発電の設置形態別の標準化(図−10)
図−10−1 光発電の設置形態別の標準化 3)
図10−2 光発電の設置形態別の標準化
参考文献
1) 井上宇市、中島康孝 共著:「建築設備ポケットブック改訂第4版」相模書房発行
2) 中島康孝他編著:「ソーラー建築設計ガイドブック」日本建築学会編、彰国社発行
3) 中島康孝他編著:「ソーラー建築設計データブック」日本建築学会編、オーム社発行

このコンテンツは、ALIA NEWS Vol.89(2005.9)から、原文のまま掲載しております。
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