創立15周年記念ネットフォーラム
  
      住産業に係る新技術の動向について
生活支援ロボットと住空間環境のデザイン

(株)東芝 研究開発センター 研究主幹 松日楽 信人


1 まえがき
 ロボット技術は産業用ロボット、原子力施設保守用ロボット、宇宙開発用ロボットなど特殊環境で培われてきたが、最近は医療・福祉用ロボット、病院・施設用や家庭用ロボットとその応用分野をより身近な環境へと拡大している。さらに、ロボット技術(RT)としてロボットの要素技術の応用も広がっている。とくに家庭用では、防犯、留守番、情報端末、コミュニケーションなどいろいろなロボットの開発が行なわれている(1)(, 2)。ここで、とくに家庭や施設などで人の生活を支援する、人の自立を支援するようなロボットは総称して生活支援ロボットと呼ばれている。生活支援分野のロボットでは、人の意図を正しく認識し、人や環境に働きかける技術が不可欠である。このように人を中心とした人にやさしいヒューマンセントリックテクノロジーはロボットに限らず、人が使うあらゆる機械に共通の重要な技術でもある。東芝ではすでにネットワーク機器と人とのインタフェースとしてロボット情報家電のコンセプトモデルApriAlphaTMを開発しており、多様な用途への応用を検討している(3 )。本報では、生活分野で使用していくために必要な基礎技術として、ユーザーの要求をどの方向からでも認識する聞き分けロボットと、ユーザーのそばに常に付き添うお供ロボットについて紹介し、これらのロボットが実際に実現するための課題について述べる。
 なお、これらのロボットは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)次世代ロボット実用化プロジェクト(プロトタイプ開発支援事業)に採択され、2005年愛・地球博 NEDOプロトタイプロボット展(6/9〜6/19、モリゾー・キッコロメッセ)、および、ロボットステーション(8/23〜9/4)に展示実演された。ここで、お供ロボットの画像処理は東京理科大学と共同開発したものである(4)。


2 生活支援ロボットの課題とは
 現在、社会は少子高齢化、情報社会化、防犯問題、さらに2007年問題と言われている熟練労働者不足の問題などさまざまな課題を抱えている。ロボット技術はこれらの課題に対する回答の一つとして期待が高まっている。しかし、これらの課題に対応するためには、いわゆる生活環境下で確実に、安全に動作するロボット技術が求められている。これまでロボットの実用化が進んできた工場や原子力施設などの特殊環境下では、ロボットが作業しやすいように環境が事前に整えられているが、生活環境下では、これら問題は殆ど未解決である。すなわち、
(a)作業環境や移動環境などの運動環境が一定でない
(b)背景や照明など画像処理環境および生活騒音など音声処理環境などの認識環境が一定でない
 さらには、ロボットの専門家がそばにいるわけではないので、誰でも操作できなければならない、といった課題がある。これらの課題に対しては、環境や作業を限定し単機能なロボットから順次、目標を設定しながら開発を行って行く必要があるが、ここでは、住空間環境により実現性を高める検討を行なう。
 一方、生活支援分野では実作業を行うためのアームや移動などの運動制御の技術ばかりでなく、人とロボットの間の画像や音声などのヒューマンインタフェースの技術が重要である。ロボットが支援動作を行うためには、まず人とコミュニケーションし、人がどこにいて、何を望んでいるのか分からなければ、ロボットはサービスができない。さらに、人にサービスを行うには、人のそばにいて、いつでも頼めるという対人性が自然であり安心感を高める。そこで、ロボットに対してどの方向からでも聞き分ける聴覚機能を持った聞き分けロボットと画像処理により特定の人物にお供する対人追従技術をもったお供ロボットの開発を行った。また、ロボットはシステムであり、画像や音声処理が単体で動作してもロボットとしての機能が十分に生かされない。運動も含めてこれらの処理がシームレスに繋がる必要があり、音声、画像、運動の統合を図った。


3 周囲から複数の指令を認識する“聞き分けロボット”
 一般の家庭内環境は図−1に示すように、ロボットに指示を与えるユーザー以外に人の話し声や、テレビなど様々な雑音源が存在する。したがって、これら生活雑音の中でもロボットがいろいろな方向から発せられるユーザーの声を個々に聞き取り、認識して対応しなければならない。そこで、複数のマイクを配置し、それぞれのマイクでの位相差から音源の空間位置を推定し、次に、適応アレイ処理で雑音を抑制した音声の抽出を行い、それらを認識エンジンで個々に認識処理させる。以上の処理により、全方位から複数の音声を聞き分ける高性能の聴覚機能をもつ聞き分けロボットを開発した。愛・地球博会場の騒音下においてもある程度の認識が可能であった。表−1に仕様を、図−2に外観を示す。
(a) リビングでの雑談時 (b) TVを見ながら利用
図−1 聞き分けロボットの利用シーン

表−1 基本仕様
寸法 直径φ380mm,
高さ430mm
質量 約10 kg
ユーザインタフェース マイク6, スピーカ2,
CCDカメラ2,
液晶モニタ(タッチパネル付)
動作 車輪:左右独立2輪駆動
首(回転), 目(パン・チルト)
通信 無線LAN (IEEE802.11a/b)
電源 リチウムイオンバッテリ
(駆動:連続約2時間)

図−2 聞き分けロボット“ApriAlphaTM V3”
 また、ロボットは移動が可能であり、固定マイクとは違い、聞きやすい位置へ移動することで認識率を上げられる。顔認識などについても同様に見やすい位置へ移動できることがロボットならではの特徴である。


4 人に付き添い追従する“お供ロボット”
 人と共存するロボットは、決められた経路に沿って特定の場所の間を移動するばかりでなく、臨機応変な移動動作が求められる。例えば、図−3のように、幼児やお年寄りの行動の様子を見守り家族に伝えたり、いつもそばに付き添い家電操作や情報提供などのサービスを行ったり、また、ショッピングセンターで荷物を運びながら後を付いて回ってくれるなど、安全・安心な生活を支援する。
(a) 幼児やお年寄りの見守り (b) ショッピング
図−3 お供ロボットの利用シーン
 ロボットが人に付いて行くには、特定の人を見つける機能、人の歩く早さに合わせ、時には障害物を避けながら付いて行く機能、また、人を見失ったら探す機能の3つがあげられる。開発したお供ロボットでは、特定の人を確実に見つけるために、家庭のような複雑な背景を含む画像の中から人物領域を認識抽出する新たな人物検出アルゴリズムを搭載した。まず、2つのCCDカメラから得られる画像中の特徴点を自動抽出し、各点までの距離、速度、さらには、追従する人の服の色や柄など多様な情報を組み合わせることで、照明や見え方の変化に強いロバストな人物追尾を実現した。同時に、障害物があった場合には、超音波センサにより障害物を回避し、見失った場合には再度探索するような機能を開発した。表−2に仕様を、図−4に外観を示す。ロボットはそばにいても安心できる優しいデザインとした。
表−2 基本仕様
寸法 直径φ450mm, 高さ900mm
質量 約30kg
ユーザインタフェース マイク2, スピーカ2, 赤外リモコン
CCD カメラ2, 液晶モニタ
(タッチパネル付)
動作 車輪:左右独立2輪駆動
首(2回転), 目(パン・チルト)
通信 無線LAN (IEEE802.11a/b)
電源 リチウムイオンバッテリ
(駆動:連続約1時間)

図−4 お供ロボット“ApriAttendaTM”


5 家庭内で要となるホームユースロボット
 生活支援は必ずしもロボット単体で行うものではなく、情報ネットワークやセンサーネットワークなどと連携した方がより効果的なサービスが出来るようになる。すでにApriAlphaTMではネットワーク家電の制御やインターネットを経由したニュースや天気などの情報も取得・提示可能であり、図−5に示すように音声で指令することでロボットを介して家庭内機器の操作ができる。すなわち、ロボットはネットワークによりセンサや種々のデータベース、専門能力の拡大が図れる。逆に言うと、ロボットはネットワークシステムにおける一つの移動型端末、インタフェース、センサとも言える。図−6に示すようにホームユースロボットは家庭内ホームネットワークの要であって、掃除のような単作業ロボット、情報家電ロボット、多機能ロボットと進化していくものと考えている。さらにロボットが実際に生活分野で活躍できるようになるには、ロボットの能力向上だけではなく、ロボットの働く環境の整備が必要である。情報ネットワークの普及と共に、住宅のバリアフリー化に見られるように、実環境においてもロボットにも優しいインタフェースのデザイン(Universal Design with Robots)があり 5)、環境を情報的側面と物理的側面からデザインすることによって、生活支援ロボットの実現は早まると考えている。

図−5 ホームネットワークと家電との連携

図−6 ホームネットワークの要となるホームユースロボット


6 実際に生活支援ロボットを実現するには
 とくに、ロボットが家や施設の中で活躍するには、ロボットが自由に動くと共に、ロボットが家の中のどこにいるか、何があるか、という運動制御と認識処理の大きな問題がある。「見る」、「移動する」、「ハンドリングする」ということがロボットの自律に欠かせず、ここで住空間環境側からのデザインと整合性をとることにより、実現可能性が高くなる。ロボットの実現機能はまだまだ低いために、ユニバーサルデザインの考え方がロボットにもあてはまるだろう。また、特別な機械が新たに家庭に入るよりも、これまでの機器や住空間環境と親和性の高いものにしなければ普及は難しいと考えている。

(a)作業環境や移動環境が一定でない:運動環境
 まず、移動に関しては、はじめはある程度広いスペースを想定し、そこで、ロボットの有効性を示しながら次第に家庭など個別環境に導入されると考えている。通路の確保はもちろん、段差、階段、ドアなど移動を妨げる要因は多い。しかし、ロボットのメリットが明確ならば、環境側の工夫をすることである程度は対応が可能である。車イスが通れる空間はロボットも通れる。この他、住宅用には、例えば、段差、ドアなどは、スロープ、パワーアシストドア、自動ドア、さらにはペット用の小ドアなどもすでに実用化されている。(環境側の物理的インタフェースデザイン)
 次に、ロボットが作業対象物をハンドリングできなければならない。そのためには作業するための機械的なインタフェースをなるべく共通化していく必要がある。具体的にはロボットが対象物を持ちやすいような機械的なインタフェース(形状)である。こ
れまで実用化されている作業は把持部の形状が統一されているものが多い。原子力や宇宙応用のメンテナンスロボットでの把持部や結合部は数種類に共通化されている。(対象側のインタフェースデザイン)

(b)背景や照明など画像処理の環境が一定でない:認識環境
 家族の顔を認識したり、何がどこにあるか画像により計測あるいは認識する場面は多い。画像処理は照明や背景の変化に弱いので、最初は認識する場所や照明条件を合わせる必要がある。また、場所や位置、対象物の認識においては、高度な画像処理ばかりに頼らず、その場所を示すマーカー(幾何学的表示)などを貼ることにより、画像処理の負担を軽減できる。画像処理の能力の向上は継続的な研究により進むと考えられるが、他の方法で解決できるのであればロボットにすべて頼る必要はない。こほか、直接的なマーカーだけでなく、I Cタグなどネットワーク技術により電子的に情報享受して、自己位置や作業内容などを認識することも可能である。(環境側の電子的インタフェースデザイン、環境の情報構造化とも言う)
 さらに、ドア、ドアノブ、窓など形状自体をランドマークとすることも考えられる。例えば、ドアは押して開けるのか引いて開けるのか、ドアノブの形から分かればロボットだけでなく人にとっても分かりやすい。


7 あとがき
 本報では、生活支援分野へのロボットの取り組み、ヒューマンインタフェース技術として、新たに開発した全方位聴覚機能を有する聞き分けロボット、人物追従機能を有するお供ロボットについて紹介した。最後に、将来ロボットが家庭の中で活躍する際の位置づけ、および生活分野へより普及するための環境デザインについて述べた。環境との整合性により、ロボットの作業性は飛躍的に向上するが、その際の整合性はロボットだけでなく人にも優しいものでなければならない。このような生活支援型ロボットの早期実用化に向けて一層努力して行きたい。なお、ここではあまり触れなかったが、ロボットの安全性、信頼性をどのように考えるかも実用化における大きな課題である。
参考文献
(1) 特集:生活支援ロボット、ロボット、147、p.2−42、2002
(2) 特集:清掃・留守番・セキュリティロボット、ロボット、152、p.1−26、2003
(3) 松日楽、小川:先端技術をリードするホームロボットの開発動向、特集ホームロボット技術、東芝レビュー、Vol.59、No.9、pp.2−8、2004
(4) 松日楽、小川、吉見:人と共存する生活支援ロボット、東芝レビュー、Vol.60、No.7、pp.112−115、2005
(5) 和田:ホームロボットのデザイン、東芝レビュー、Vol.59、No.9、pp.15−19、2004

このコンテンツは、ALIA NEWS Vol.89(2005.9)から、原文のまま掲載しております。
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