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      住産業に係る新技術の動向について
高齢化社会に対応した居住環境整備の重要性

松下電工(株) エイジフリー事業推進部 事業企画担当課長  橋本 良子


 シルバーサービス振興会の久留氏の基本論調を受け、高齢者に対応した居住環境整備の重要性と今後の方向性について論ずることとした。


1 高齢者がおかれている居住環境の現状
 高齢者の居住環境では、久留氏の論文に引用されていた国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」によると、2010年ごろには人口の4人に1人は65歳以上の高齢者が占めるようになり、厚生労働省大臣官房統計情報部の「国民生活基礎調査」によると、2002年度で高齢者の半数近くが高齢者のみで居住しており、ひとり暮らしの高齢者は、既に340万人を越えているのである。つまり、久留氏も論じておられたように、これらの住宅は居住者である高齢者の生活行動に適合した設備になっていることが望ましいのであるが、我が国では比較的に早い時期にマイホームを持つ場合が多く、高齢者にとって安心して住める住まいにはなっていないために、居住者の高齢化に伴って住宅のリフォームを実施する必要が生じてくる。


2 高齢化に対応した住宅リフォームのポイント
 高齢化が進むにつれ、さまざまな身体的変化が生じる。動作面では、@筋力や平衡機能の低下により転倒しやすくなる、A関節の動く範囲が狭まるために、立ち座りがつらくなる、B骨がもろくなるため、骨折しやすくなる、C身体の変形〔円背など〕により、バランスを崩しやすくなる、D手の触覚や握力の低下により、細かい手作業やモノを握るのが困難になる、などの傾向が強くなる。一方、感覚・意識面では、@視力の
低下により、モノが見えにくくなる、A聴力の低下により、音が聞き取りにくくなる〔特に高音〕、B温熱感覚や痛覚の衰えにより、低温やけどやじょく瘡に気づきにくくなる、などの傾向が強くなる。これら高齢者の身体状況の変化を踏まえた上で、高齢者の住宅リフォームは実施されるべきであり、生活ゾーン別住宅改修のポイントを表−1に示し、イメージを図−1に示す。
生活ゾーン ポイント
エントランス
階段には、つかみやすく頑丈な手すりを設置する。
ポーチライトは、夜遅い帰宅なども考慮して、人を検知して自動的に点灯する灯りを設置する。
玄関扉の開閉動作スペースを考慮し、庇または屋根を設置する。
ポーチは、水に濡れても滑りにくい床材に。つまずきの原因とならないように、目地が深くならないようにする。
ドアホンは、相手の顔が確認できるカメラ付のドアホンでハンズフリー機能付のものを。
ドアは軽く開閉できて、取っ手の大きなものにする。
玄関ホール
玄関の出入口は車いすの使用も考えて、段差をなくす。
上がり框は昇り降りしやすい高さ〔180mm以下〕にし、段差が目立つように色や材質を工夫する。
土間は、水に濡れても滑りにくい床材に。つまずきの原因とならないよう、目地が深くならないようにする。
深くしゃがみこまなくても靴が履き替えられるベンチ・踏み台を設置する。
つかみやすく頑丈な手すりを設置して、ベンチの立ち座りの姿勢を安定させる。
車いすを使用する場合も考えて、開口部の幅は、800mm以上にする。
灯りは充分な照度〔50〜100lx〕のものを来客時お互いの顔が影にならないように框の上あたりに取り付ける。スイッチ操
作が不要のセンサー付器具が便利。
トイレ
寝室近くに配置すると、深夜も安心。
便器の立ち座りを支えるために、肘置きなどが付いた便器を設置したり、壁に手すりを取り付ける。
通報設備を設置して、万一の時に備える。通報スイッチは、倒れた姿勢でも手が届く場所に設置する。
暖房便座や暖房器具用に専用回路でアース付コンセントを設置するとともに、暖房器具も設置する。
床は滑りにくく、汚れにくい材質とし、もし汚れても掃除がしやすい材質を選ぶ。
ボタンやファスナーがよく見えるように明るい照明〔 50〜100lx 〕を設置。逆に深夜はまぶし くない工夫が必要。
スイッチは手のひらでも押せる大型で、夜に光るほたる機能付きを。センサー式スイッチなら 消し忘れも防止できる。
トイレの床、出入口、廊下等の間の段差をなくす。
充分な開口幅をとり、中で倒れても開けられるよう引き戸や外開き戸に。把手は棒状のものやレバーハンドル式にし、万一の
ために外から開けられる鍵にする。
手洗い器は、使いやすい位置に設置。水栓は、レバー式やプッシュ式に。自動水栓なら水の止め忘れがない。
浴室
将来介護が必要になった時のことを考えて、介護可能なスペースである1坪以上の広さが望ましい。
浴室の出入り、洗い場での立ち座り、浴槽の出入り、浴槽内での立ち座りなどに対応する手すりを壁に取り付ける。
気分が悪くなったときなど、すぐに連絡ができるように通報設備を設置する。通報スイッチは、倒れた姿勢でも手が届く場所
に設置する。
水栓・シャワーは、湯水の出水・止水はもちろん湯温調節も容易にできるものを、手が届きやすい安全な位置に設置する。
浴槽は、またぎやすいように床から浴槽の縁までの高さを350〜450mmとし、浴槽の縁には、腰掛けるスペースを設置。
浴槽内の深さは浅めの500mm程度とし、長さは、膝を曲げても端に足が届くくらいが適当。
浴槽の底面が滑りやすいと危険なので、滑りにくい浴槽や滑り止めマットを使用する。
いすを使う場合も身体を深くかがめなくてすむように、洗面器置き台を設置する。
出入り口は、有効幅600mm以上の引戸か折れ戸にする。外から解錠できるようにし、トイレの床、出入口、廊下等の間の段
差をなくす。
床は湯水や石鹸を使う場所であるので、濡れていても滑りにくい仕上げの床を選ぶ。
急激な温度変化を避けるため、脱衣所も含めて、暖房設備を設置する。
浴室全体として50〜100lxの明るさを確保する。スイッチは大型で、ほたる機能付きのものを設置する。
キッチン
床は滑りにくく、汚れにくい材質とし、もし汚れても掃除がしやすい材質を選ぶ。
カウンターは、腰に負担がかからないように作業しやすい高さ〔身長÷2+5cm〕に設定する。
調理や後片付けの動線を考慮した調理台のレイアウトにする。
水栓は、レバーが操作しやすく湯温調節も容易にできるものを、設置する。
安全に配慮した調理器具を用いるとともに、汚れにくく、掃除が容易なものを選択する。
使用頻度の高いものを収納するスペースは手の届く所に設置する。スライド式や電動式で容易に手元に引き寄せられる工夫を。
万一の火災・ガス漏れに備えて、検知・通報設備を設置する。
全体照明として、75〜150lxの明るさを確保し、流し元灯も明るいものを設置する。
キッチンには多くの電気器具が使用されているので、住宅分電盤の回路数に余裕を持たせ、コンセントを多めに設置する。また、
水のかかるところのコンセントはアース付きにする。
スイッチは大型で、ほたる機能付きのものを、かがまなくても操作できる90〜120cmの高さに設置する。
足元を暖かく保つ暖房器具を設置する。
寝室
浴室・トイレ近くに隣接していると便利で安心。
ベッドからリモコン操作で、点灯・消灯・照度調節ができる照明器具を設置。
ベッドから手の届く位置に通報スイッチを設置し、万一の火災に備えて、2方向に開口を確保しておく。
自然光を取り込み、充分な照度を確保。枕元にはスタンドや足元灯を設置。
器具配置を考慮してコンセント設置場所を設定する。
1人ならば8〜10畳、2人ならば12畳を目安にスペースを確保。ベッド横に、直径1.5m程度の余裕を持たせておけば、車
いすの回転・移動が可能。
スイッチは手のひらでも押せる大型で、夜に光るほたる機能付きを。
床は、滑りにくく、車いすの利用も考慮し、傷つきにくいものを。
出入口や他室との段差は、3mm以内。出入口は引戸が望ましく、開口幅は750〜800mmを確保する。引戸の場合は、レー
ルなどによる床段差が出ないように。
ふとんの出し入れが不要なベッドを利用する。


3 介護保険制度における住宅リフォームの現状
 2 0 0 0 年4月から施行された介護保険制度においては、要介護認定者が居住する自宅の住宅リフォーム費用として、要介護度に関係なく1軒当たり20万円を限度額とする支給申請をすることができ、そのうち9割が保険で支給されることになっている。住宅リフォームとは、手すり取付や段差解消の工事等により、要介護者の自立度を高めることを目的としており、給付対象となる工事は、次の6項目である。@手すりの取付、A床段差の解消、B滑りの防止及び移動の円滑化等のための床または通路面の材料の変更、C引戸等への扉の取替、D洋式便器等への便器の取替え、Eその他前出の各号の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修。 介護保険における住宅改修の費用額は、2005年4月度で約35億円に達しており、1軒あたりの費用額は、約12万円〔厚生労働省発表 2004年度 介護保険事業報告〔全国計〕より〕であり、工事内容としては、手すりの取り付けが大半である。
 介護保険の総費用額が2005年度の予算ベースで既に6.8兆円に達していることからすると、住宅リフォームの利用率はまだ低いと考えられる。2006年4月からの介護保険制度改定により、要介護者のADL〔日常生活動作〕改善を更に強化することを狙った介護予防サービスが創設される。住宅リフォームにはある程度のまとまった費用が必要であるが、居住者である要介護者のADL改善を図ることにより、介護サービスの中心である人的サービスの量の低減につながり、引いては介護保険費用額全体も低減できることから、その効用を業界としてさらにPRすることが肝要である。
 また、家族が介護されている場合は、住宅リフォームにより要介護者のADLが改善されると介護負担の軽減になることも着目すべきである。


4 要介護者向け住宅リフォームの特性
 要介護者向け住宅リフォームの特性として、居住者の身体症状〔例えば片側半身の麻痺・手足の震え・歩行困難により転倒しやすい・下半身麻痺など〕が個々人によってさまざまであるため、それぞれの居住環境における個別の行為ごとに、どこにどのような困難があるのかを細かく分析することが要求される。例えば、「排泄が困難」というケースに対して、「一部介助」と判断し昇降便座を組み入れ、それで住宅改修は終わったと考えるのは早計である。個別行為ごとに考えると次のようになる。@扉をあける、A電気をつける、B扉を閉める、Cズボンをおろす、D便座に座る…このように「排泄」行為に辿り着くまでに5つの行為が行われることになり、そういった1つ1つの動きごとの困難をどんな手段で解決するかを探ることが、居住者にご満足いただけるプランづくりの第一歩であると同時にADL改善につながることになるわけである。


5 要介護者向け住宅リフォームを成功させるポイントと介護リフォームプランナーの役割
 前述のような特性により、要介護者向け住宅リフォームを推進する介護リフォームプランナーには、建築の専門知識に加え、福祉系の専門知識も必要となっている。
 公的資格としては、福祉住環境コーディーネーターなどが適合する資格であるが、要介護者の生活環境を想定する場合、住環境と福祉用具との組み合わせにより、更にADLは改善されるため、福祉用具専門相談員などの専門知識も要求される。これらの専門知識を保有する介護リフォームプランナーが、医療系の専門家である作業療法士・理学療法士、そして介護リフォームを行政側に申請する居宅介護支援専門員(ケアマネジャー)などと連携して推進することが、居住者の顧客満足度が高まる住宅リフォームを実現するポイントになる。
 また、久留氏の論文にも触れられていたように、これからの介護保険制度における質の向上策として、提供される介護サービスがその対象者の自立支援に本当に役立っているかどうかを継続的に評価し、その結果に応じて、提供サービスメニューを見直すことが当然のこととなってくる。その視点からすると、要介護者向け住宅リフォームにおいても、一回目の工事が終了すれば完了したのではなく、居住者である要介護者のADLを継続的にモニタリングすることにより、リフォームの効果を把握し、必要であればさらにリフォームの追加・変更を実施することが当たり前となる。そして、これら一連のリフォームをハンドリングすることも介護リフォームプランナーの役割であり、この一連の流れを円滑に推進できるシステム構築が事業者側にとっては重要である。業界としては、前出の介護リフォームプランナーの養成および介護リフォームのモニタリングシステムの構築を推進することが、急務である。


6 高齢者向けビジネスの方向性(まとめ)
 介護保険制度の開始により、介護サービスの世界は、官の管理下にあった「措置」からユーザーである要介護者の「自己選択」へと転換することで、市場競争原理が導入されることになり、多種多様な事業者の参入が拡大したことは喜ばしいことである反面、高齢者向けの住宅リフォーム業界にも悪質業者が散見されるようになっている。社会的弱者である高齢者の弱みにつけ込んだ手口で、契約書の不備や法外な価格の設定、果ては手抜き工事により居住生活に支障が出る始末で、業界としてもこれらの悪質業者の排除に取り組む必要がある。そのためには、久留氏も述べている「情報開示の標準化」の推進により、サービス提供事業者の質の確保(クオリティコントロール)を図ることが重要である。
 また、久留氏は、2015年以降に団塊の世代(第一次ベビーブーム世代)が高齢期に突入すると、これまでの高齢者像とは異なり、提供されるサービスや商品に対し更に厳しい目をもって選択すると述べておられ、ますます市場競争原理が働くマーケットに成長していくと考えられる。その中で高齢者向けビジネスを指向する事業者は、高品質なサービス提供により顧客満足度を向上させることができるかどうかが成否の分かれ目になることは確実であろう。

このコンテンツは、ALIA NEWS Vol.89(2005.9)から、原文のまま掲載しております。
社団法人リビングアメニティ協会